第20章−6 異世界の監禁は退屈です(6)

 緊迫した時間が流れた後、


「……王宮魔道士デス」


 小さな声が聞こえた。


「リニーくん、それって、この『このお城は誰が建てたのでしょうか?』っていう質問に『大工さん』って答えるのと同じだよ? リニーくんならわかるよね? リニーくんはわかって言っているんだよね?」


 オレの厳しい追求に、リニー少年は全身を震わせながら、ポロポロと涙を流しはじめた。

 床の上にポタポタと涙の粒が落ちていく。


 子ども相手に性格悪いなぁ、とは思うが、オレもいい加減、我慢の限界に達していた。


 オレがおとなしく従っているもんだから、ヤツラも図に乗ってきたんだろう。


 この国のヤツラの思惑はよくわからない。

 だが、オレにだって、異世界の魔王としてのプライド、矜持というものがあるんだ。今は仕事してないけどな。


 今後のこともあるので、この辺りで少し、警告をしておこうかな。


 黙っているフレドリックくんを視界の隅にとらえながら、オレは言葉を続けた。

 リニー少年と、リニー少年の背後にいる人物たちに向かって警告を発する。


「あのさぁ、オレ、喧嘩は嫌いなんだけどさ。自分の身に降りかかる火の粉はしっかりと払い落とすよ?」

「うっ……ゆ、ゆうしゃ……さま……」


 冷え冷えとしたオレの声に驚いたのか、リニー少年の顔が上がる。

 可愛い少年の顔は涙で濡れている。


「リニーくん、オレのこと、軟弱なヤツに見えるのかもしれないけど、それって、勘違いだから。オレが本気だしたら、すごいことになるよ? オレは、売られた喧嘩はしっかり買うよ? いいんだね? 相手が子どもだろうが、容赦はしないよ?」


 グスグスと泣いている金髪の小姓を、オレは冷ややかな目で見つづける。


 言葉だけでなく、魔王としての威圧も使った。普通、子どもならもっとギャン泣きしているだろうね。


 これだけ責め立てても、父親の名を出さないとは、大した胆力だ。


 さすが『不可思議怪奇奇譚』五十一巻を制覇した少年だけのことはある。


 この国の小姓が優秀なのか、リニー少年が優秀なのか……。

 それを見極めることもできないくらい、オレはこの国のひとたちとの接点がすくない。


 国葬でみんな忙しいとか、魔王を召喚してしまったことを隠したいからか、オレが親しくなったのは、ドリア王太子、リニー少年、フレドリックくんだけだ。


 異世界に召喚されて十八日になるが、親しくなったのはたった三人だよ?

 意図的なものを感じても不思議じゃないよね。


 まあ、元の世界でも、親しい友人とか、恋人とか……別れが辛いので、あまり密な関係を築くのは避けていたんだけど、普通に交流はあったよ。


 民からも、臣下からもフレンドリーな魔王様って、慕われていたわけだし。


「国葬が長引いているからとか……イロイロあるだろうけどさ、そろそろ城の外にだしてくれてもいいんじゃない? もう、オレ、ココでやるコトなくなっちゃったんだけど? 読む本もなくなっちゃったよ?」

「ですから、その件は……今朝も言いましたが、国葬が無事に終了し、事後の処理が終了したら、外出可能になります」

「事後の処理って、何日かかるんだよ?」

「……王太子殿下の努力次第です」


 泣いているリニー少年に代わって、フレドリックくんがオレの質問に答える。


「勇者様の『早く、お城の外に一緒に出かけたいから、がんばって』の一声が頂ければ、事後処理はすぐに終了するかと……」




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