第20章−5 異世界の監禁は退屈です(5)

 フレドリックくんも少しだけ、困ったような表情を浮かべている。どうオレをなだめようか思案しているようだった。


「……新しい本を借りて来ましょうか?」

「いや。もう、いいや……」


 残るジャンルはロマンス小説か官能小説くらいしか思い浮かばなかったので、断りを入れる。


 特に、官能小説は、禁書庫の本を読破したことで、すでにおなかいっぱいだ。


 フレドリックくん自身も、オレに与えるめぼしい本がなくなって、困惑しているようだ。


 だって、フレドリックくんが『世界に残したい至高の郷土料理厳選集』を借りてきたとき「もう、こんな本くらいしか残っていません」って、申し訳なさそうに言ってたもんなぁ……。


 禁書庫の本がもっと健全で前向きな魔導書とかで埋め尽くされていたら、魔術の研究とかを始めてもよかったのだが、あの魔術の研究はちょっと……やりたくない。


 いや、あの魔術にも、こんなバリエーションがあるぞ、とか、魔法陣をこう修正したら、もっと効果抜群な状態になるだろう……とか、研究の余地はイロイロあったんだけどねぇ……。

 需要はあるかもしれないけどさ、さすがにどうかと思う。


 ****


「オレって、そんなに軟弱に見えるのか?」


 オレのいきなりな質問に、室内にいたリニー少年とフレドリックくんはしばし沈黙する。


 どうやら熟考しているようだ。


「もっと、もっと、お世話をしたい……ようには見えます」

「なんだよそれ……」

「ずっと、お護りしていたい存在に見えます」

「……言葉を選んでいたわりには、ダメダメな返事だな」

「申し訳ございません」

「精進します」


 ふたりのすっとぼけた返事に、オレは不快感もあらわに眉根を寄せた。


 茶菓子としてだされていたチョコをぽいと口のナカに放り込み、もぐもぐと咀嚼しながら、オレはふたりを交互に睨みつける。


 フレドリックくんは無表情を貫いていたが、リニー少年はオレの視線に耐えきれずに、おずおずと顔を伏せる。


「そっちにはそっちの事情があるかもしれないけどさぁ……コレって、オレがいた世界では、監禁って言うんだよね?」

「勇者様、監禁は言い過ぎです。せめて、軟禁……」

「どっちも、閉じ込めていることにはかわりないよな?」


 リニー少年の反論をオレは片手をあげて、強い口調で遮った。


「昨日の夜からだよね? この部屋に転移阻害の結界が張られているんだけど? オレが気づかないとでも思ってた?」


 オレがそろそろ城の外にでたい……とドリア王太子に言ってしまったからだろう。


 それ以外、考えられない。


 うかつだった。


 これくらいの転移阻害なら、結界を破壊するときに、ちょこっと反動で怪我をするかもしれないが、転移はできる。


 この程度の結界では、オレの外出妨害はできない。


 それは黙っておこう。


 下手に結界を強化されたら、本当に出て行きたくなったときが面倒だ。


 だが、問題はそこではない。


 気持ち……心証の問題だ。


「コレ、誰がやったんだ? すごく、不愉快なんだけど? オレが勝手に出ていくとでも思ったのかな?」


(ばっちり思われているんだろうな――)


 言われるがままに大人しく従っていたのに、この仕打ちである。


 信用されていないと思うと同時に、自分の置かれた境遇と、それに甘んじている自分自身に苛立ちが募ってくる。


 返答に窮したリニー少年は、俯いたままだった。


「誰がやったのかな?」


 再度、問いただす。


 さっきよりも、口調は強めに、そして、冷ややかに……。



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