第20章−4 異世界の監禁は退屈です(4)

 オレが読了した『世界に残したい至高の郷土料理厳選集』は、全八十巻構成という、なかなかに読み応えのある本だった。


 だが、オレにとっては微妙な本だったよ。


 ぶっちゃけ、異世界出身のオレが読むべき本ではなかった。


 一応、この世界の地図と地名は頭に叩き込んではいたけど、どこぞの地方とか、奥地とか、すでに滅んだ部族の幻の料理……と言われても、ピンとこない。


 この世界を巡って、食べ歩きでもしろというのだろうか……。


 そもそも、食べることに興味がないのに、なぜ、こんな本をリクエストしたのか、自分で自分がわからなくなっていた。


 ヒマになると、ろくなことを考えなくなるという典型的な例だろう。


 そもそも、記載されている食材からして、オレがいた世界にはないものだ。


 食材事典にも目を通していたが


「へえー。もとの世界とよく似た食材がけっこうあるなー。でも、ビミョーにちがうな――」


 で終わってしまっていた。


 地方限定とか、希少種とか、絶滅危惧種とか並べ立てられても、当惑するしかないだろう。


 さらに、どこそこの料理とくらべて、味はどうだとか……そもそも、どこぞの料理がオレにはよくわからない。


 文字情報の限界を感じさせられた厳選集だった。


 そもそも『厳選』というからには、八十巻とかではなく、せめて四十巻で収めるくらいに厳選しろ、と読後の感想を心のなかで、オレは反芻する。


 うん、だらだらと話を長くして巻数をかせいだって、読者は嬉しくないよな……。


 勇者の世界でもそんなかんじだったぞ。


 基本、書庫から持ち出せる――貸出可能な――本は、最悪、紛失しても被害が少ない本に限られていた。


 持ち出し禁止の印が刻まれた本の方が圧倒的に多い。


 借りられる本は、手に入りやすい普及本か、面白くなくて盗む価値もない本だ。


 だから、室内読書が面白くない状態になっているともいえる。


 まあ、そういう本でも、本は本にかわりない。


 どんなに面白くない本であっても、本に罪はないからね。


「退屈で死にそうだ……」


 と言いながら、チラリと、壁際に佇んでいるフレドリックくんへと視線を向けてみる。


 しかし、返事はない。


 ただの壁のようだ。


「フレドリックく――ん」


 こっち、こっち、と手招きする。


 自分はあくまでも壁、をフレドリックくんは最後まで貫き通そうとしていたようだが、再度、オレが手招きすると、観念したかのように、オレの側にゆっくりと近づいてきた。


 いつもの厳つい表情が、さらに厳しいものになっている。


 今日のフレドリックくんは、オレとはあまり会話をしたくないようだ。


 理由はなんとなくわかる。


「勇者様……今日は、お部屋でゆっくりとお休みください」

「もう十分すぎるくらい、ゆっくりと休んだよ……」


 頬をぷくっと膨らませ、口先を尖らせて反論する。


 すみません。


 自分でやっておいて、大人げない態度だと思いました……。




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