第20章−3 異世界の監禁は退屈です(3)

 リニー少年が、空になったカップに紅茶ではなく、ハーブティーを継ぎ足してくれた。


 オレのイライラを察知しているのか、心が落ち着ちつくとてもよい香りのするお茶だ。

 出されたハーブティーに、オレは蜂蜜をたっぷりと入れて飲む。


 オレが統治していた『夜の世界』では、蜂蜜はとても貴重なもので、『昼の世界』にしか存在しない、入手困難な嗜好品だった。


 こちらの世界では、あの温室の花の量からして、蜂蜜舐め放題なのが嬉しい。


 オレが蜂蜜をいたく気に入っている、と聞いた庭師たちが、ミツバチを使役して、色々な花の蜜をせっせと集めてくれているという。


 しかも、うれしいことに、色んな花の蜜が混じっている百花蜜ではなく、手間をかけて様々な単花蜜を集めてくれているんだ。


 いわゆる養蜂だよね。


 なんでも、ミツバチを捕獲して飼い慣らし、躾けて従わせて、使役虫として自在に操っているそうだ。


 『躾』とか、『使役』とか、元の世界で懇意にしていた『昼の世界』の商人から聞いた養蜂と、少し違うような気もするが……まあ、これが異世界のあるある醍醐味なんだろう。


 異世界の蜂蜜は、それはもうびっくりするくらい美味しかった。


 量は少ないが、色々な花の蜜の味がわかって、これがなかなかに楽しいんだよね。


 バラシリーズということで、昨日は白バラ、今日は赤バラの蜂蜜をいただいている。


 同じバラなのに、微妙に風味が違うから驚きだ。


 リニー少年に言わせれば、その違いがわかる方が驚きだ、と言われてしまったけどね。


 庭師たちには、蜜の違いがわかる男が客人だ、と知れ渡ったそうで、ミツバチ担当者は、めちゃくちゃやる気になっているそうだ。


 ****


「退屈だ……」


 手についてしまった蜂蜜をペロペロしながら、オレは呟く。

 お行儀はよくないが、お茶に溶かすよりも、そのものを舐める方が、オレは好きなのだ。


「退屈だ……」


 もう一度、呟く。


 書庫で借りてきてもらった『世界に残したい至高の郷土料理厳選集』の最終巻を読み終えた。


「ものすごく退屈だ……」


 自分の呟きなのだが、その声はとても低く、棘があった。


 殺気が少々籠もっている。

 自分で聞いててちょっと怖かった。


 うん。今、オレはどうしようもなく、ものすごくイライラしていた。

 蜂蜜やハーブティーくらいでは、このイライラはおさまりそうにもない。

 

 センターテーブルの上に置いた本の表紙を、蜂蜜がつかなかった方の手でゆっくりと撫でる。




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