第19章−5 異世界の示談は難しいです(5)

 オレはドリア王太子の頭に手を載せると、ゆっくりと撫でる。何度も、何度も撫でる。


 辛抱強くナデナデしていたら、拗ねたような王太子の顔が、だんだんと嬉しそうな表情に変わっていく。


 うーん。これは、昔、可愛がっていたミニフェンリルとそっくりな反応だ。


 城に置いたまま視察にでると、ミニフェンリルは決まって拗ねてしまう。

 帰還後に、ご機嫌ななめなミニフェンリルを、オレが自ら必死になだめていた状況とよく似ていた。


 おいてけぼりをくらったミニフェンリルは、オレが戻ってくると、クッションの上でふて寝しているフリをしている。

 名前を呼んでも反応しないし、エサをちらつかせても、ずっといじいじしているのだ。


 それはそれで可愛いのだが、ハンストされても困るので、ミニフェンリルのごきげんとりをする。


 しゅーんと項垂れていたのが、頭をナデナデしてやると、とたんに目をキラキラさせ、尻尾をフリフリしはじめ、最後にはひっくり返ってもっと撫でてって、つぶらな瞳で訴えてくるのだ。

 なかなかにあざとかったのだが、それはそれで可愛くて、オレは許していた。


 飼っていたミニフェンリルのことを思い出し、もう少し、ドリアの頭をナデナデしてやりたかったんだが、ほどほどにしておく。


 興奮したミニフェンリルは可愛くひっくり返ったが、王太子の場合は、オレの方をひっくり返そうとするだろう。


「ドリア、あまりみんなを困らせるなよ。今日は公務をがんばれ」

「うう……。マオが言うのなら、今日はがんばるが、明日ならいいのか? もう、わたしは、マオに会うために、ずっと、ずっと、がんばっているぞ?」


 なにがいいのかよくわからないが、宰相の方を見ると、首を横に振っている。


「あ……明日も、なにか予定があるみたいだぞ。ホラ、アレだろ? 国葬も終盤だから、帰国する国賓たちに、ちゃんと、参列のお礼を言わないとだめだぞ」


 ドリアの頬にそっと手を添え、顎にむかってゆっくりと撫で下ろしながら、オレは語り聞かせる。


「すごいなマオ! よくわかってるじゃないか!」

「まあな……最後まできっちりと国王代理としてがんばれよ。外交問題にかかわってくるからな。油断するなよ。応援してるからな」


 だって、オレは魔族の頂点に立つ王様だ。

 王様業務に関しては、三十六回経験した大ベテランである。


 国葬って、業績のある個人の死をみんなで悼むというよりは、普段はなかなか手をつけることができない対外的な交渉ごとを、一気に処理するために行われるようなものだ。

 国に貢献したやつは、死んでも働かされるのだから、大変だよね。


 オレのアドバイスがはたしてどこまで王太子に伝わったのかはわからないけど、ドリアはとても嬉しそうだったよ。



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