第19章−4 異世界の示談は難しいです(4)
「王太子殿下。殿下の『大切な勇者様』は、お体の調子が優れないとのことです。お茶は後日改めて、というとことにして、本日は勇者様の用件のみ、手短に済ませましょう……」
宰相の発言に、ドリアは大きく頷いた。
オレはドリアの所有物になった覚えはないのだが、手短に済ませたいので、宰相の失言は聞き流す。
「宰相から聞いたぞ。寝込んでいたのだな? 大丈夫なのか?」
「うん、ちょっと疲れが溜まっていたようだ。一日休んだら元気になったぞ」
だからそんなに心配しなくても大丈夫……と、この部屋にいる全員にオレは言ってやりたい。
なんだ、なんだ? この厳戒態勢は……。
ものものしすぎる。
「本当か? 無理していないか?」
「してない。してない」
「そうだ! だったら、今日は、わたしがマオの看病をしよう!」
どういうことだ? どういう言語理解で、『だったら』となり、導き出された結論が、オレの看病になるんだ?
オレの言葉をちゃんと理解しているか?
それとも、異世界自動翻訳がバグっているのか?
今に始まったことではないが、ドリアの思考回路が大いにおかしい。
よいことを思いついたという発言に、部屋にいる王太子を除く全員が驚き慌てた。
「先程も説明いたしましたが、王太子殿下には、この後のご予定がございます」
「そんなもの、明日にはできないのか?」
「王太子殿下、そんなもの……ではございません。とても重大なご用件です。明日にできないから、今日、行うのです」
宰相はため息と一緒にそう言いながら、むっつりとした顔で、オレの方を睨む。
この視線は、オレからもなんとか言え……ということだろう。
「いや! 大丈夫。もう、すっかり回復したから、ドリアの看病は必要ないぞ。その気持ちだけありがたく受け取っておく」
ナイスなフォローではないだろうか?
「……でも、フレドリックとリニーは、マオと一緒に寝ているんだろ?」
部屋の空気が凍りつく。
箝口令をしいていたのではないのか?
どうして、それを王太子が知っている?
じわじわと緊張が高まるなか、こめかみの辺りを押さえながら、宰相が重々しく口を開いた。
「王太子殿下……。勇者様づきのフレドリックとリニーには、不特定多数の者が滞在しているこの期間、勇者様のお側で、夜の番をするように命じただけです。言葉には気をつけましょう」
さすがは宰相だ。
言葉選びがうまい。
感心していると、宰相の刃よりも鋭い視線がオレに突き刺さる。
ぼーっとしてないで、フォローしろという宰相の視線が痛い。
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