第19章−3 異世界の示談は難しいです(3)

 キラキラ眩しいドリア王太子の登場である。


 姿が見えたと思った次の瞬間には、問答無用でオレはドリア王太子に抱きしめられていた。

 今日は一段と締めつけが激しい。


 脇に控えていたフレドリックくんがすぐさまドリアを引き剥がしてくれた。


 ドリアは床に膝をつくと、寝台で上体を起こしているオレを見上げる。


 オレに一直線な好意を向けている王太子の頬はうすっらと上気し、目にはじんわりと涙が浮かんでいた。


 そんなに……泣くほど感激してもらっても困るのだが……。


 ドリアがオレに会えた喜びを噛み締めている間に、王太子の護衛もとい、監視をしている近衛騎士たちもぞろぞろと寝室に入ってきた。


 いつもは、ベテラン風の騎士がひとりに、若い騎士が従っているという風なのだが、今回のメンバーは、小隊長クラスのベテランばかりで構成されている。


 みるからに、精鋭を厳選したっぽい。


 寝室に入ってきた者は、近衛騎士だけではなく、宰相も騎士団長もいたよ。


 狭くはない寝室だけど、これだけの人数が入ってくると、なんだか圧迫を感じ、息苦しくなる。ガタイのいい騎士たちだから、なおさらだろう。


 いや、実際にみんなは厳しい顔で王太子を睨み、なにやらすごい圧を放っている。

 だが、当の本人は鈍感なのか、ケロっとしていた。


 ある意味すごい。


 軽くお茶会のつもりだったのが、厳しい顔つきの面々に囲まれて、なんだか物々しい雰囲気になってきた。


 これじゃあ、お茶を用意してもらっても、喉を通らないだろうね。


 とりあえず、目をキラキラさせ、オレの言葉を待っている、子犬のようなドリア王太子の相手をしなければならない。


「あ――、ハイハイ。オレも会いたかったぞ。元気にしてたか?」

「え! マオはわたしのことを心配してくれるのか! マオもわたしに会いたかったのか!」

「う、うん……」


 ものすごく嬉しそうで、前向き思考な声に、オレの心臓の鼓動が早くなる。

 禁書庫の鍵を返したかったのだから、嘘ではない。


 嘘はついていないよ?


 ドリア王太子は、オレのおざなりな社交辞令に、とてつもなく嬉しそうな笑顔を浮かべた。曇りのないキラキラ笑顔が眩しすぎて、若干だが心が痛む。


 感激のあまり立ち上がり、どさくさにまぎれてオレに抱きつこうとするところを、怖い顔をしたフレドリックくんと騎士団長サンが、両脇から取り押さえて、先程の場所に引き戻す。

 さすが親子。見事な連携だ。




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