第19章−2 異世界の示談は難しいです(2)
そんなことを考えていると、突然、オレの胸に、鈍い痛みが走った。
その痛みを振り払いたくて、フレドリックくんの首に回した腕に力がこもる。
「勇者……様?」
オレの突然の行動に驚いたのか、フレドリックくんの歩みが不意に止まった。
護衛騎士の「どうされましたか」という無言の問いかけに、オレはぎゅっと目を閉じ、「なんでもない」と答えた。
この胸のモヤモヤは一体、なんなんだろう……。
湯船の中に浸かってもそのモヤモヤは晴れず……時間の経過も忘れて悶々と悩んでいたら、オレはのぼせてしまった。
そして、恥ずかしいことに、再びフレドリックくんに抱きかかえられて、寝台へと戻ったのである。
う……ん。
こっちの世界に来て、オレ、弱くなってないか?
少なくとも、魔王としての尊厳は、異世界に召喚されている途中、どっかに落としてきたとしか思えなかった……。
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さて、夜になった。
風呂でサッパリしたオレは、過保護な小姓と超過保護な専属騎士に押し切られ、寝台で軽めの夕食をとった。
そして、その流れで食後のお茶も寝台で頂くということになってしまった。
これはそれで危険なような気もするのだが……。
服も普通のシンプルな夜着に、シンプルな上掛けを羽織っているだけだ。
どこからどう見ても、これは病人扱いである。
というか、この姿は……王太子の目には「どうぞお好きにしてください」と映るのではないかと、オレはガチで心配している。
そう、子羊だったか仔山羊だったかが、自ら進んで生贄の台に寝転び、塩を振りかけナイフを差し出すようなものだ。
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「マオ――っ! 会いたかったぞ!」
毎度のことで、ばーん、と大きな音をたてて入口の扉が開いた。
王太子だから許されるのかしらないが、ノックぐらいしろ……。
それにしても、異世界の扉の耐久力がすごすぎる。
あんなに激しい扱いを受けても、びくともしていない。
オレの城の扉なら、確実に壊れているだろうね。
元の世界に戻ったら、城の強度も見直した方がいいかもしれないな。
「マオ――っ! マオ――っ!」
扉の向こうでは、オレの名を呼ぶ叫び声とともに、なにやら、ガシャン、バタン、パリーンとか、ものがひっくり返る音や倒れる騒々しい音が聞こえる。
扉の向こうで一体、なにが起こっているのだろうか。
リニー少年の眉間にしわが寄る。
近衛騎士だろうか。「王太子殿下、落ち着いてください!」「ああっ。せっかくのお花が……花瓶が……」というような焦った声が複数聞こえた。
「マオ――っ! マオ――っ!」
さらに大きな音をたてて、寝室の扉が豪快に開いた。
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