第19章−1 異世界の示談は難しいです(1)

 一週間くらい前に『不可思議怪奇奇譚』を読んで暗闇が怖くなったオレは、毎晩フレドリックくんとリニー少年に添い寝をお願いしていた。


 枕が変わっただけで眠れない、デリケートなオレだ。

 あんな、怖いモノを読んでひとりで眠れるはずがなかった。


 三人が仲良く並んで川の字状態は、あの日以来、一日も欠かさずにずっと続いている。


 魔力枯渇で昏倒した昨日の夜も、眠りに入る前は、ふたりと一緒に寝床に潜り込んだ。

 オレが仮死状態モードになってからは、ふたりがどういう行動をとったのかはわからないけど……。


 リニー少年は子どもらしく、寝床に入ったとたん入眠する。あくまでもマイペースなコだった。

 寝顔はあどけないのだが、漂う気配が睡眠の邪魔をするな、とオレに訴えてくる。


 ……将来、大物になりそうだ。

 チビッコの睡眠妨害をするほどオレの根性は悪くない。


 布団にもぐって暗闇にガタガタ震えているオレは、消去法で、フレドリックくんを抱き枕状態にして寝ていた。


 天井の木目とか、カーテンの影とか、寝台の下とか、部屋の鍵穴とか……もう、あっちもこっちも怖いものだらけだ。


 風の音ひとつにびくつくオレに、フレドリックくんは嫌な顔もせず、呆れ返ることなく毎晩つき合ってくれている。

 申し訳ないと思うと同時に、護衛騎士がフレドリックくんでよかったなあと、オレはしみじみ思った。


 フレドリックくんは湯たんぽみたいに暖かくて、懐かしい気分に浸れて、いい匂いがしたんだ。

 たくましい胸にスリスリと頬をよせてくっつき、胸と同じくたくましい腕に抱きしめられると、不思議なことに、暗闇に対する恐怖から解放される。


 毎日毎晩、オレはぬくぬくと、フレドリックくんに護られながら眠っていたのである。


 夜会の主催や、国賓との会談で忙しい王太子殿下には、この添い寝のことは伝えていない。

 ばれたら「わたしも、マオと一緒に寝るんだ――っ」と、大騒ぎになるだろう。というのは、誰でも簡単に予想できたからね。


 で、一緒に寝たら、別の意味で『寝た』になってしまうから、問題なのだよ。


 フレドリックくんとリニー少年の父親たち――騎士団長と宰相――の許可もあり、近衛騎士団総出で、フレドリックくんとリニー少年は、寝ずの番として交代で隣室に控えている……とドリア王太子には思わせるようにしていた。


 だが、いつまでもこの関係に甘えていては駄目だろう。

 国葬もあと数日で終了する。


 通常の政務になれば、ドリア王太子だって、自由にできる時間が増えるだろうし、脱走頻度も高くなりそうだ。


 それに、オレもいつまでもここで軟禁状態というわけにもいかない。


 元の世界にとっとと戻れたらよいのだけど、魔王討伐をしないと戻れないのであれば、こちらの世界の魔王さんには悪いが、オレも覚悟を決めて討伐の旅にでるしかないだろう。

 自力での帰還が難しいのなら、オレが元の世界に戻れる条件を探し出さないといけない。


 なので、そろそろ添い寝を卒業しなければならない頃合いだ……。




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