第17章−3 異世界の禁書庫はピンクです(3)

 現在、大神官長の国葬で王国がドタバタしている今、オレは王城に監禁状態になっていた。


 わかりやすくいうと、やることがなくてものすごくヒマなのだ。

 書庫の本を読み尽くしたら、自然と、禁書庫へとオレの興味は移るだろうね。


 オレの言葉に、フレドリックくんは一瞬だけ驚いたような表情をする。


 う――ん、もしかしたら、フレドリックくんは、オレの怒りのはけ口になるつもりだったのかもしれないね。


 期待していた禁書庫が、全くの予想外のモノだったら、怒り狂う場合もあるだろう。


 護衛中は表情の変化に乏しいフレドリックくんだが、こうしてじっくり観察していると、無表情でないことがわかる。


 むしろ、そのかすかな表情の変化を見つけるのが、今のオレのひそかな楽しみになっていた。じっくり見ていて飽きないんだよね。

 というか、ドリアのキラキラ眩しい顔を見ているよりも、フレドリックくんくらいなのが落ち着くというか、安心できるというか……。


 フレドリックくんの見守る優しい視線を感じ、オレの沈み切っていた心は、ゆっくりとではあったが浮上していった。


 *****


 五日前から、王太子の『誠意』で、オレは禁書庫内の本を閲覧できるようになっていた。


 ちなみに、王太子から渡された『黄金の鍵』は、禁書庫自体の扉を開ける物理的な意味での鍵ではなく、禁書庫への入室を許されたことを証明する『証』であった。


 許可証を得たオレは、禁書庫の禁書が読み放題になったのだが……。


 世の中は、オレに対してそんなに甘くはなかったのだ……。


 当然のことながら、禁書庫の中は禁書だらけだったよ。もう一度、言うけど、禁書だったよ。


 鎖付図書、魔法で封印されている魔術書、豪華装丁されている本やら、表紙に錠前がついている本など、内容もさることながら、見た目からしてなにかしら云われがありそうな存在感はんぱない本が、ずらりとコレクションされていたんだ。


 歴史的、学術的、芸術的に貴重な本が目白押しだ。


 ウハウハ。ヒャッホ――ッ。


 ……と、オレは思っていた。

 信じていた。

 この五日間ずっと、それを信じていたよ。

 いや、信じたかった……と思う。


 本そのものの歴史を鑑みるに、たしかに、禁書庫に収蔵されている本は、製本技術の歴史については、研究対象になるね。

 その点においては、学術的に価値もある……だろう、おそらくだけど。


 豪華本の意匠や、装丁は、金箔、銀箔が使われ、宝石も散りばめられ、見事な挿絵もあり、芸術的な価値は……あるにはある。


 本によっては、魔術で封印されていたり、解呪しなければ読むことができなかったりと、封印魔術的観点からも、研究対象としての価値は……ありそうだね。そう思う研究者も、きっといるに違いないよ。


 そう……見た目は、ものすごく、高価で、貴重で、厳重に保管されていて当然のものだったよ。


 見た目だけね。


 何度も言うけど、見た目だけだよ。




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