第17章−2 異世界の禁書庫はピンクです(2)

 この本を読み終わったことで、オレは禁書庫に保管されている本は、ひととおり目を通したことになる。


 ……ため息がでた。


 机に突っ伏しながら、オレは恨めしそうな目で、壁と同化しているフレドリックくんを睨みつける。


 オレと目が合い、フレドリックくんの肩がかすかに震えたが、それだけだった。


「フレドリックくん?」

「はい。勇者様?」

「フレドリックくんも、リニーくんも、禁書庫の中に、どんな本があるのか知ってたんだよね?」


 オレの質問に、フレドリックくんの表情が微かに強ばる。


「……はい。王家に近しく仕える者は、みな知っております。読んだことはありませんが」

「だろうな……」


 なにが保管されているのかわかっていたら、わざわざ読みたいとは思わないだろう。


 禁書庫の本が読みたいと言ったときの、ふたりの奇妙な反応と、ドリア王太子の喜びようをオレは思い出す。


「うかつだった……」

「はい?」

「オレのいた世界の禁書庫と、こっちの世界の禁書庫の意味は違っていたみたいだ」

「……そのようですね」


 疲れ果てているオレを、フレドリックくんが、気の毒そうな目で見ているよ。


 一歩引いた位置から傍観者として眺めて同意するだけじゃなく、ヨシヨシと頭をナデナデして慰めて欲しい……と思ってしまうくらい、今のオレはどうしようもなく落ち込んでいた。

 心がポッキリと折れてしまいそうだった。

 人肌が恋しい……。


 たぶん、今、ココにドリア王太子がやってきて「マオ! わたしがマオを慰めてやるぞ!」って言われたら、迷うこと無く、オレは王太子の胸の中に飛び込んでいただろう。


 そいう意味では、ドリア王太子はとことん、ツイてない男だね。


「フレドリックくんは、気づいていたんだろ? オレが勘違いしていたことに」


 意識していなかったが、上目遣いで、少し拗ねたような口調になってしまった。

 書庫に同伴し、オレの読書傾向を観察し、本もそうとう読んでいるフレドリックくんは、オレがどんな本を探しているのか、早い段階から気づいていたようである。


「ええ……まあ……なんとなく、ではありますが……」

「だから、百聞は一見にしかず……だったんだな」


 フレドリックくんは「申し訳ございません」と言って、深々と頭を下げた。


「いや、フレドリックくんは悪くないよ。責めているわけじゃないんだ。教えてくれていたとしても、やっぱり、実際に自分の目で確かめてみないと納得できないだろうしな……」



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