第17章−1 異世界の禁書庫はピンクです(1)

 オレが異世界に召喚されて十五日目。

 王城の禁書庫に通い始めて五日が過ぎようとしていた。


 今日のオレは、禁書庫で最後の禁書と格闘していた。

 お気に入りの閲覧席に座り、一冊の分厚い魔術書を読んでいた。

 それもようやく最終ページになった。


 くらくらする頭を抑えながら、オレは読み終わった禁書のページをゆっくりと閉じた。


「なんなんだ……ココは……」


 オレはぐったりとしながら、閲覧用の豪奢な机につっぷした。

 額が机に当たり、ゴツンという鈍い音が、静寂に包まれた室内に響く。


 禁書には読者の魔力を喰うモノもあり、この本には、かなりの量の魔力を盗られてしまった。


 精神疲労がハンパない。

 貧血に似た状態になってしまい、頭がくらくらするよ……。

 期待していたコトがこれっぽっちも書かれていなかったので、疲労度がさらに増す。増し増しだよ!

 椅子の座り心地は最高だったが、気分は最低だよ。


「なんだコレは……」


 机に額を押し付けながら、オレはブツブツと呟く。


 ****


 禁書ばかりが収蔵されている部屋は、少しかび臭かった。


 書庫内では私語は禁止だが、利用者が多い書庫は厳粛ななかにも、押し殺したざわめきがあった。


 だが、禁書庫内にはオレと護衛のフレドリックくんしかおらず、しんと静まり返っている。

 フレドリックくんはほぼ壁状態なので、オレが独りでいるのとかわりない。


 静かな気配のなか、オレの大好きなインクの匂い、紙の匂いが漂っている。

 オレの大好きな空間だ。


 なのに、オレはかつてないほどの居心地の悪さを感じていた……。


「勇者様、お顔の色がすぐれないようです。……少し早いですが、今日はこれで退出されますか?」


 オレの落胆ぶりを心配したのか、フレドリックくんが休憩を勧めてきた。


「いや……いい。もう少し、このままで」


 と、答えながら、オレはテーブルの上にある分厚い魔術書へと手を伸ばす。


 フレドリックくんはなにか言いたそうな顔をしていたが、ぐっと言葉を飲み込むと、再び壁に徹する。


 オレは呪文を唱え、魔術書の封印を復活させた。

 さらに、オレの厳重な封印もそこに加え、解呪に失敗したら、三日三晩、激痛に苦しむトラップも加える。


 心のなかで、もう二度と、この本を読もうと思うヒトがいないように……と願わずにはいられない。


 解呪するときとは違い、封印の作業はすぐに終了した。

 ただし、さらに大量の魔力が無くなっちゃったよ。


(どんだけ強欲な本なんだよ……)


 書かれているものがヒトの欲望を満たすものだからかな。


 色々な意味で、これは危険な本だった。


 魔力が少ない者がうっかり読もうと試みたら、間違いなく、魔力を根こそぎ吸い取られて死んでしまうだろう。

 なかなかデンジャラスな本だよ。


 禁書庫の奥の奥の、さらに奥の、幻影魔法で隠され、厳重に鍵がかかった棚の中に保管されていただけのことはあるね。




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