第16章−5 異世界の愛の証は重たいです(5)

 その鍵は黄金色に輝いており、持ち手の部分には竜の意匠が彫られていた。

 この国の国旗に描かれている竜だ。


「鍵?」

「そうだ。鍵だ。オレたちの愛の証だ!」


 誇らしげにふんぞり返っているドリア王太子には悪いが、どこからどうみても、高価そうな鍵でしかない。


 オレたちの『たち』が誰をさしているのかは、あえて触れないが、そこには愛のカケラも片鱗もない。


 フレドリックくんの顔からは表情が抜け落ち、リニー少年はドン引きしている。


「鍵だよ! 禁書庫の鍵だ!」

「こ、これが!」


 ドリア王太子の言葉に、オレだけではなく、フレドリックくんとリニー少年も驚いた顔をする。

 王太子の手際の良さに驚いているようであった。


 このやる気をもっと、国政に……と、リニー少年がブツブツと呟いている。

 こんな幼い子どもに、そんなことを言わせるなんて、ダメダメだろう。


「この鍵を書庫の管理人に見せたら、禁書庫に案内してもらえるぞ! 明日から、マオは禁書庫の本が読めるんだぞ!」


 そう言いながら、王太子は、オレの手に黄金の鍵を渡してきた。


「お、おう……ありがとう」


 ドリア王太子の勢いに負けて、オレは反射的に『愛の証』なるものを受け取ってしまった。


 意匠に凝りまくっているからか、ただの鍵なのに、手にずっしりとした重みが加わった。


 う……ん、コレは、物理的にも、精神的にも『重たい』鍵だよな……。


 変な呪いがかかっていないか、探知魔法をこっそり発動させてみたが、大丈夫なようである。


「ドリアは勘違いしているようだが、オレが欲しいといったのは、『愛の証』ではなく、『誠意』なんだが……」


 オレのために、ドリア王太子は一生懸命がんばってくれたようなので、それはありがたい。

 ただ、がんばった原動力が、かなりいただけないだけないんだよな……。


 鍵を受け取ったオレを、ドリア王太子は嬉しそうに見つめている。


「もっと、ゆっくり、マオと愛を育みたいのだが」

「育む必要はない」


 反射的に本心が声にでてしまった。

 が、声に出したところで、王太子には聞こえていない。


「残念なことに、トイレ休憩はもうすぐで終わりなんだ。我慢してくれ」


 残念なのは、ドリアのお花畑な頭の中だろう。

 笑顔だけは、キラキラ眩しいから、なおさら残念感マシマシである。




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