第16章−4 異世界の愛の証は重たいです(4)

 オレの真意をはかりかねているのか、フレドリックくんの赤い瞳が困惑の色に揺れている。


 そうだろう。

 オレ自身も、なんでこんなことを言っているのかよくわからない。


「……退屈でしたら、リニーに盤上遊戯の相手でもさせましょうか?」


 職務に忠実なフレドリックくんの返事に、オレは少しだけがっかりする。

 なぜ、そこでがっかりしたのか、よくわからない。


「それとも、少し早いですが、今日はもうお休みになられますか? 昨日はあまり熟睡できなかったでしょうから……」

「う、う……」


 煮えきらないオレの返事に、フレドリックくんは軽く頷く。

 膝を付き、オレを見上げる。


「木目の模様は、昨日と同じです。まだヒトの顔に見えるようでしたら、今日も、わたしとリニーはこちらに留まりますが、いかがいたしましょうか?」

「うん。ぜひとも、そうして……」


 ほしい……と言いかけたのだが……。


 ガンガンガン!


 突然、扉が大きな音をたてた。


「ひいいいいいいいっっっっ!」


 オレの悲鳴と同時に、派手な音をたてて扉が乱暴に開いた。


 突然の乱入者に、フレドリックくんは剣の柄に手をかけながら、反射的に立ち上がる。

 が、勢いよく開いた扉の前に立っていた人物が何者かわかったとたん、フレドリックくんは剣の柄から手を離し、姿勢を正す。


「マオ! 褒めてくれ!」


 キラキラと輝く眩しい金髪の王太子が、脇目も振らず、弾丸のように駆け寄ってくる。

 恐怖に身を固くしていたオレに、ドリア王太子が勢いよく抱きついていた。


「マオ! マオ! やっと会えた! 褒めてくれ! 鍵だ!」


 無駄に光り輝いている王太子は、オレを絞め殺さんばかりの強さで、思いっきり抱きついてきた。


 く、苦しい……。


「王太子殿下! 晩餐会の途中では?」


 この騒ぎに驚いたリニー少年が、控え室から飛び込んでくる。


「気にするな! トイレ休憩だ! すぐ戻る。それよりも、マオ! 喜んでくれ!」


 いやいや。普通は気にするだろう。

 王太子ひとりが登場しただけで、部屋の中が一気に騒々しくなる。


 王太子の衣装は、国賓と同席するため、いつもよりも豪華で、華やかだった。

 とても似合っている。

 すごく似合っている。


 なのに……。


 マオマオ連発で、なぜかすごく残念なコに見えてしまう。

 立派な衣装が泣いてるぞ……。


「マオ! オレの愛の証を見てくれ!」


 と言うと、ドリア王太子は懐から一本の鍵をとりだしていた。




***********

お読みいただきありがとうございます。

フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。

***********

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る