第16章−3 異世界の愛の証は重たいです(3)

 オレは大きなため息をつくと、読んでいた『世界の笑話大全』の一巻を閉じた。

 陽気な気分になれる本を……と思って、この本をチョイスしたのだが、少しも頭の中に入ってこない。


 残念ながら異世界の笑いのツボは、オレの好みとは少し違っていたようだね。どこが楽しいのか、どこで笑ったらいいのか、全くわからない。

 哲学書の方がまだ理解できるよ。


 カサカサカサ……コソっ。


(ひいいいっ。カンベンしてくれっ!)


 感じる。感じる。


 頼んでもいないのに、オレの危険察知スキルが、肉食花の温室内パトロールを勝手に察知する。

 スキルレベルが高すぎるのも問題だ。


 だからといって、部外者のオレが城の警備体制に文句を言うわけにはいかないから、ここはひたすら我慢だ。辛抱強さには定評がある。

 それに、口出しするほど肉食花にはかかわりたくない。

 今は勇者様扱いだが、いるかいないかわからない客人になって、フェードアウトするくらいの存在感でオレはいいんだよ。


 今日は肉食花の蠢く気配をひしひしと感じるので、オレは温室に面したテーブルではなく、なるべく温室から離れた……暖炉の前の長椅子に座って読書をしていた。


 色んな意味で、今晩も……怖い。

 正直なところ、昨晩よりもさらに怖いよ。

 どうしよう……。


 暖炉の前の長椅子からだと、扉の前で控えているフレドリックくんの姿がよく見える。

 壁と化しているいつもどおりのフレドリックくんを見て、怯えている心をなんとか落ち着かせる。


「フレドリックくん……」

「勇者様、お呼びでしょうか?」


 赤髪の護衛騎士が、静かにオレの側に近づいてくる。


「つまらん……」

「はい?」


 フレドリックくんは首を傾げながら、不貞腐れているオレを見下ろす。

 その視線は、愛しいヒトを見つめる……ではなく、可愛らしい弟を見守るような生ぬるい目線だった。


 生存年数トータルでは圧倒的にオレの方が年上なのだが、どうも、情けない姿を見せ続けたせいか、フレドリックくんにとって、オレは目が離せない、手のかかる弟ポジションに落ち着いてしまったようである。


「この『世界の笑話大全』のどこが面白いんだ?」

「……申し訳ございません。わたしにもそれのどこが面白いのか、よくわからないのですが……」


 申し訳ないと言う割には、恐縮している風もなく、フレドリックくんは平然と控えている。

 というか、フレドリックくんもこの本を読んでいた、ということにオレはひそかに驚たよ。

 まあ、この本を読みながら、ケタケタと笑い転げているフレドリックくんの姿はなかなか……想像できないよね。


「フレドリックくんの話の方が、だんぜん面白いと思う」

「…………ありがとうございます」




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