第16章−2 異世界の愛の証は重たいです(2)
うるさすぎるドリア王太子と、静かすぎるフレドリックくんのことをぼんやりと考えながら、オレは食後のまったり読書タイムへと突入していた。
よくよく思い返せば、三十六番目の勇者が召喚されてから、今日の今日までオレはドタバタと忙しい日々を送っていた。
ここらあたりで、リニー少年が言うように『のんびり』過ごして、自分自身を振り返ってみるのもいいかもね。
しかし!
オレの心はゾワゾワしていた。
空の色が薄い青色から、オレンジ、赤色に変化して、オレの馴染み深い『夜の世界』の色に染まると、室内もだんだんと暗くなってくる。
そういう暗い部分があちこちにできはじめると……ちょっと油断すると、部屋のスミッコになにかいそうな気がして、落ち着かない。
いまもその……カーテンの隅になにかいるような膨らみがあって、正直、怖かった。
確か、カーテンの隅に邪霊の吹き溜まりができて、そいつに喰われるという話は、六巻に載っていた。
(怖くない。怖くない。怖くない……)
書庫で借りてきた本のページをめくりながら、オレは、自分自身に言い聞かせる。
オレの『不可思議怪奇奇譚』の読書記録は三十巻で終了……挫折した。
もう、二度と読もうとも思わなかったし、背表紙も目に入れたくないよ。
まあ、三十一巻目を手に取ったら、間違いなく、フレドリックくんに止められたと思うけどね。
今日は『不可思議怪奇奇譚』を読んでいないのに、まだその恐怖の余韻はオレの心のなかに棘となって残っていた。
さっき見つけたカーテンの膨らみが、脳裏から離れてくれないよ。
フレドリックくんの話によると、大体、三十巻辺りで挫折する近衛騎士たちは、約一週間ほど暗闇を怖がったという……。
宰相家の文才、恐るべしだ。
また、オレが恐れているのは、暗闇だけではない。
大神官長の国葬には、多数の国賓が滞在している。なので、王城の警備体制も強化され、なんと、アノ肉食花も二十四時間体勢で警備配置についているというのだ。
まあ、そのための肉食花なんだろうけどね……。
訓練されたエリート肉食花は、庭師の監視下の元、定期的に庭園内を見回っているという。
今も温室の方から、カサコソという不気味な音が聞こえてきて、オレの恐怖心をさらに煽ってくる。
オレは魔王なのに……。
暗闇の中でも平気だったのに、なんで、こんなことになってしまったんだろうね……。
マジで夜のトイレにはひとりで行けなくなってしまった。
三十六回も魔王として生きていたら、それなりに衝撃体験をして、トラウマもあるにはあるのだが、異世界に召喚されて、トラウマの数とバリエーションが一気に増えた気がするよ。
もう、二度と、異世界の地は踏みたくないね。
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