第15章−5 異世界の本は強烈です(5)

 オレとフレドリックくんも、リニー少年にならって寝台に横になった。


 極上の柔らかい布団が、オレを優しく包み込む。

 いつもはその柔らかさにうっとりとしてしまうのだが、今日は違ったよ。


 なんかフワフワしすぎて頼りない……。


 それでも、両隣にヒトがいることで、オレの心にも少し余裕がうまれてくる。


 ……余裕ができるとだな……アレだ。

 色々と考えてしまうんだよ。


 天井の木目がどろどろと動き、なにやら得体の知れないゾンビめいた奴が、オレの方を見下ろしている。


 扉がギギギーっと音を立てて開けば、蝋のように真っ白な顔で、血走った目がギョロリと大きく、長いボサボサの髪の女が、口から血を滴らせ、オレの方をじっとみている。


 ベッドの下には、眼窩をくり抜かれ、血の涙を流した青白い顔の子どもが隠れている。


 さらに、SFXだったかホラーだったかが好きだった勇者が鑑賞していた、枯れた井戸から這いずり出てくる女性とか……勇者お勧めの絶叫場面も脳裏に蘇り、オレの口から小さな悲鳴が漏れる。


「うう……っ」


 慌てたフレドリックくんが、オレの背中へと手を伸ばし、オレを抱き寄せる。

 肌と肌が密着し、フレドリックくんの心音がはっきりと聞こえた。


「勇者様。大丈夫です。なにも起こりませんから……」


 ぎゅっと抱きしめられ、オレはフレドリックくんの胸に身を預けながら、彼の鼓動に耳を傾ける。


 ゆっくりとした、だが、力強い鼓動を聞いていると、自分もなんだか落ち着いてくるような気がしたよ。

 震えも徐々におさまってきたね。


 フレドリックくんが言ったとおり、木目も襲ってこなければ、寝室の扉が開くこともなかった。ベッドの下に変な気配はなく、なにも起こらない。


 そして、リニー少年が期待するようなことも、オレたちの間では起こらなかったよ。


「大丈夫です。なにも起こりませんから。安心してお眠りください」


 フレドリックくんの優しい声が、緊張で縮こまっているオレの心に、ゆっくりと染み渡っていく。


 オレはフレドリックくんの逞しい胸の中で、ヒトの温もりを感じながら、朝まで眠ることができたのであった。


 う――ん?

 あれ?

 おかしい……よね?

 なにかイベントが起きると思ったんだけどなぁ……。


 ****


 翌日の夜……。


 オレが異世界に召喚されて九日目。

 オレをこっちの世界に召喚した大神官長の国葬二日目の夜になる。


 『ごめんなさい』が言えたドリア王太子と夜の時間が復活か? とオレは身構えていたのだが、今日は、国葬参加者の国賓たちとの晩餐会があるとかで、王太子はガチで忙しい。


 それでも、ドリアは何度かオレに会おうと脱走を試みたようだが、すぐさま近衛騎士に捕獲され、連行されている、とリニー少年が教えてくれたよ。


 こちらの世界の近衛騎士も、やるときはちゃんと仕事をやるようだね。

 というか、普段からこれくらいのやる気をみせてほしいものだよね。



***********

お読みいただきありがとうございます。

フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。

***********


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る