第15章−4 異世界の本は強烈です(4)

 どうしてこうなったかというと……天井の木目を怖がるオレを見たリニー少年は、少しだけ考えるフリをしてから、フレドリックくんに添い寝をするように提案した。

 提案というか、命令だった。


 だが、意外なことに、オレを口説く宣言したフレドリックくんは、オレとふたりで同衾することに難色を示した。


 王太子なら喜々として、寝台に飛び込んでくるだろうに……。


 表情の変化に乏しいフレドリックくんにしては珍しく、眉を思いっきり顰めながら、添い寝はやめた方がよいと主張した。


 フレドリックくんの添い寝は、王太子殿下のキャパを越える行為だという。

 まあ、食事をフレドリックくんと一緒にしただけで、ああなってしまうヒトである。

 一緒に寝たとなると、ただ寝ただけでも、話がややこしくなりそうだ。


 なので、フレドリックくんは寝台横の椅子に座って寝ずの番をする、と言ったのだが、それだと、オレが怖くて眠れないよ。

 胸に抱え込んでいるクッションだけでは、オレの恐怖は拭い去れないからね。

 クッションがこれほど頼りない存在に思えたのは、これが初めてだよ。


 ふたりがまずいのなら、三人ならまずくないだろう……ということで、リニー少年も一緒に寝てくれることになった。


 方針が決まると、あとの流れは早い。

 フレドリックくんとリニー少年は緊急事態ということで、交代で客室の風呂に入り、客人用の夜着に着替え、手早く寝る準備を整え終える。

 ふたりの夜着は、ヒラヒラ、フリフリではなく、男性用のいたってシンプルなものだったので、オレはひとまず安心する。


 近衛兵の制服、小姓の衣装を脱ぎ、シンプルな夜着に着替えた湯上がりのふたりは、いつもとは雰囲気が違った。

 ちょっぴり緊張してしまう。

 ふたりからは石鹸のいい香りがする。


「勇者様、わたくしのことは、寝台に転がっている抱きまくらか、くまのぬいぐるみだとでも思って、無視してくださって結構です。捨て置いてください。わたくしの隣でなにが起ころうとも、どのようなことになろうとも、少しも驚きません。うるさくても、激しくても、問題ございません。他言もしません。むしろ、おもしろそうなので、なにかが起こるの大歓迎です。やっちゃってください。期待しています」

「…………」

「…………」


 お休み前の挨拶にしては、なにやら過激な内容で、リニー少年の本音がちょろりと漏れてしまったようだが、リニー少年はそれだけを言ってしまうと、ころんと寝台に横になった。


 そして、なんと、すぐにすやすやと寝息をたてて、眠りについてしまったのである。


 び、び、びっくりしたぁ……。


 なんだかんだといっても、リニー少年はオコチャマだった。寝顔がとても……天使のように無邪気で愛くるしいね。

 少年の寝付きはとてもよく、声をかけてみたが、起きる気配はまったくなかった。


 羨ましいくらい熟睡している。ホント、羨ましいよ……。


 これなら、隣でなにかが起こっても目覚めそうにはない。



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