第15章−3 異世界の本は強烈です(3)
珍しくフレドリックくんの顔が困惑に歪む。
「り、隣室は遠い……」
「遠すぎますか? では、寝室の扉の前にいますので、なにかあれば、声をかけてください」
「だ、ダメだ!」
オレの反応に、フレドリックくんは「困ったな……」と小さく呟いていた。
相談するような眼差しを、入口付近で待機しているリニー少年に向ける。
「だ、だって、ホラ!」
そう言いながら、オレは天井のとある一点を指さした。
ふたりの視線が天井に移動する。
しばらく彷徨っていた視線が、とある一点をとらえると、ふたりは「あっ」という表情を浮かべた。
「あの木目! どう見てもヒトの顔にしか見えないじゃないか!」
「…………」
「…………」
オレの指摘に、フレドリックくんとリニー少年は、大きなため息を吐き出していた。
「ヒトの顔に見えるな……」
「そうですね。勇者様のおっしゃるとおり、あの木目、ばっちりヒトの顔に見えますよね……」
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「勇者様、本当に、大丈夫ですか? 今からでも医師に睡眠薬を処方してもらった方が……」
「いや、大丈夫だ」
即答するオレに、フレドリックくんは訝しげな視線を向ける。
「もしかして……お薬が嫌いとか?」
「それはない!」
オレの拒否に、フレドリックくんはあきらめたような吐息をつき、オレの背中をゆっくりと撫でてくれる。
フレドリックくんの逞しい胸の中で、オレは小さく縮こまって、カタカタと震えていた。
トイレに行けないと駄々をこね、木目がヒトの顔に見えると怖がり、そのうえ、薬は嫌いだから飲みたくない……など、どこのオコチャマかよ、って言いたくなるね。
言っておくが、オレは薬嫌いでも医者嫌いでもないよ。
どうも、異世界の薬はオレの体質に合っていないのか、調合の比率が間違っているのか、微妙に効かないのだ。
それに、原因が恥ずかしい原因だけに、あまり大騒ぎにはしたくないんだよ。
闇に葬りたいくらいの、恥ずかしすぎる内容だからね。
王太子の耳に入っても、やっかいでしょ。
「わたしがマオの恐怖を取り去ってやる!」
とか嬉しそうに言って、アレヤコレヤをはじめられても困るからね。
とはいえ、夜番の近衛兵は、廊下で部屋の警護をしている。
夜、部屋に呼ばれたフレドリックくんが部屋からでてこなかった……ということは、遅かれ早かれ、ドリア王太子の耳に入るだろうね……。
今、オレを真ん中にして、右手側にフレドリックくん、左手側にリニー少年が眠っている。
オレが使う寝台は、三人が寝転んでも余裕という、驚きの広さだ。
たぶん、複数人でアレヤコレヤをやってしまっても大丈夫! という広さ設計なんだろう。
なんとなく、そんな気がしたね。
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