第14章−6 異世界の告白は突然です(6)
躰の筋肉は鍛えまくっているが、表情筋は鍛えていないのか、フレドリックくんの表情にこれといった変化はない。
真面目顔のキリリとしたデフォルト表情のまま、オレの専属護衛は言葉を続けた。
「今まで口説かれることは多々ありましたが、自分が口説く側になるとは、思ってもいませんでした」
「…………」
「これからがとても楽しみです」
前向きすぎる発想に、オレは呆れ返るしかなかった。
王太子ほどではないが、フレドリックくんもなかなかポジティブな思考回路のようである。
なにがどうなったら、そういう発想になるのだろうか?
わからない。
理解できないね。
異世界は、王太子だけじゃなく、護衛騎士も変なヤツだったよ。
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食後のお茶を終えると、フレドリックくんは夜番と交代する、とのことで、部屋からでていった。
ドリアが足繁く通っていたときは、この後は夜の時間に突入し、リニー少年も部屋の後片付けなどをしてからその日の勤めを終了させるのだが、ここ数日はその大人な時間がないので、オレはまったりと数時間、ダラダラ読書をしてから寝ることにしている。
異世界に召喚されたことによって『夜の世界』の王政から解放されたオレは、労働らしい労働はせずに、読む、食う、風呂、寝る……という、贅沢な暮らしを堪能していた。
本を読み尽くしたら、これから先は暇になるだろうが、今はなかなかに充実している。
ちょっとした休暇だ……なんて言ったら、もとの世界でおあずけをくらっている三十六番目の勇者に悪いだろうね。
三十六番目の勇者も気の毒だが、オレが休むまでリニー少年を拘束することになるのも心苦しい。
夕食がすんだらもう休んでいいと何度も言ったけど、リニー少年はああみえても頑固なところがあって、オレが寝床に潜り込むまでは勤めを終わろうとしない。
それじゃあ、オレが読書をあきらめて寝室へ行こうとすると、自分に気遣って、読書をやめる必要はない、と叱られ、引き戻されてしまうのだ。
そういうわけで、読書タイムとなったのだが……。
オレは反射的に、というか、無意識に――あまり深く考えずに――テーブルの上に置いてあった『不可思議怪奇奇譚』の七冊目に手を伸ばした。
一瞬、リニー少年が「それ、読むんですか?」という顔をしたが、フレドリックくんの告白を思い出して悶々とするよりも、読書をする方が気が紛れるだろう、とそのときのオレは思い、本のページを開いた。
で……あとからものすごく後悔することとなったのだ。
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