第14章−5 異世界の告白は突然です(5)

 隙あらば襲ってくる王太子と違い、フレドリックくんの態度はとても紳士的だった。


「そもそも、臣下が主人の想い人に横恋慕するなど、あってはならぬことです」


 フレドリックくんは、護衛中と全く変わらぬ厳しい顔で、言葉を続けた。

 ……その辺りの考え方は、オレのいた世界と同じみたいで、ちょっと安心した。


「ただ、このままですと、お優しい勇者様は、ご自身の気持ちが定まらないままの状態で、王太子殿下のペースに流されてしまわれそうで……」


 フレドリックくんの鋭い指摘に心臓が跳ね上がる。

 そうだったよ。

 オレ、あっさり簡単に流されかけていたよね……。

 しかも、かなり大きな波にどっぷりとひたって、さらわれかけていたような気がするよ。

 フレドリックくんの指摘を否定することはできない。


「勇者様、そのような調子では、王太子殿下をつけ上がらせてしまいます」


 苦々しいフレドリックくんの声に、オレはうん、うん、と同意する。

 ダメなコが、さらにダメなコになってしまうパターンだ。


 それをフレドリックくんは心配しているようだ。

 フレドリックくんの科白は辛辣だけど、声音はそこまで冷たくない。


 なんだかんだと言って、フレドリックくんは、王太子を心底嫌ってはいないのだろうね。

 これはもう、アレだ、アレ。

 ダメなコほど可愛いという法則なんだろうな……。


「わたしの存在が、流されがちな勇者様を立ち止まらせ、振り返らせることになれば、と思いました」

「ああ……」


 なんて、男前なんだ。

 フレドリックくんは、我が身を犠牲にして、自分から、当て馬、噛ませ犬役をやろうということか。


「……と言いたいところですが」

「へ?」

「あんなヘッポコな鬼畜に大事な勇者様を任せるわけにはまいりません。勇者様がヘッポコに傷つけられるなら、わたしが勇者様を殿下から奪ってみせます!」

「…………」


 熱く語られ、その飛躍した内容に、オレは愕然としてしまう。


「フレドリックくんの気持ちはありがたいが……オレは……その……元の世界に帰るつもりだ」

「はい。存じております」


 フレドリックくんに動揺した様子はない。

 オレの読書傾向で、バレてしまっているようだ。


「だから……その……こちらの世界のヒトを好きになるとか、そういうのは……」

「わかっております。だから、これから、そういったことをコミコミで、じっくりと口説いてまいります」

「無駄だと思うぞ。その……ドリアとは、その……媚薬の原液とか……成り行きというか、よくわからないまま、あんなことになってしまったが……」

「それは、口説きがいがある、ということでしょう?」


 この後に続くオレの言葉を察したのか、珍しくフレドリックくんがオレの発言を遮るように言葉を重ねてきた。しかも、かなり積極的な発想だ。


 異世界のひとたちって、前向きなヒトが多いね。

 いや、単に、オレが後ろ向きなだけなんだろうが……。



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