第14章−4 異世界の告白は突然です(4)

 真剣に思い出そうとしているオレの顔をみたフレドリックくんは、小さなため息を吐き出した。


「全く覚えていらっしゃらないとは……冗談だと思われているよりも、傷つくものですね……」

「んんん?」


 フレドリックくんは「邪魔者はいませんし……」と小声で呟くと、手を伸ばし、オレの手を優しく握りしめた。


 突然の展開に、オレの心臓が飛び跳ねる。


「勇者様……これを機に、わたしと付き合ってみませんか? 勇者様の傷ついたお心を、新しい恋で癒して差し上げます。新しい恋を、わたしと共に育くみませんか?」


 甘い科白と、甘い笑顔が、オレに向けられる。


「ああああああっっ」


 お、思い出してしまった……。

 そうだ。

 そんなことを、フレドリックくんは、たしかに言ってた。


「えっと……それって、ドリアに『ごめんなさい』をさせるために、煽ったんじゃないの?」

「いえ、違います。王太子殿下に宣戦布告しました」


(おいいいいいっ!)


 キリッとした顔で、このヒトはなんてことを言ってくれるんだ!


 夕食時の再現、とでもいうのか、優しいキスをオレの手の甲へ落とすことも忘れない。


「あ…………」


 夕食時は触れるだけで、すぐに唇が離れたのだが、今回は、オレの手の甲に吸い付いたまま離れない。

 上目遣いのフレドリックくんの視線と、驚愕で硬直したままになっていたオレの視線が絡まっちゃたよ。


 引きずり込まれそうな真摯な視線に見つめられ、オレの心臓がバクバクしだす。


 どうしたんだろう……。


 フレドリックくんの唇に触れられている部分だけがものすごく熱いんだけど?


 いやいやいやいや。

 おかしいだろオレ。


 王太子が残念な子だったからといって、目の前に現れた男前に口説かれて舞い上がってどうするんだ!


 オレは勇者か魔王かとか言う前に、男だ!

 男が男にトキメイてどうする!

 しかも、ふたりの男に言い寄られるなんて……。


 たしかに今回の三十六回目の治世ではなかったが、過去、何度かこういう展開が、そこそこあったことを思い出し、オレは地味に落ち込んでしまった。


 もう、こういうメンドクサイ展開はこりごりだ。


 もう、トータル何千年魔王をやったのか、定かではない。

 なのに、色恋に関しては、いつまでたってもスマートにやりすごせない。

 恋愛初心者はいつまでたっても恋愛初心者のままだった。


 フレドリックくんは何も言わない。

 ただ、オレの甲に唇を当て、静かな目でオレを見ているだけだ。


「へ、へ、返事は……い、いますぐ……なのか?」


 夕食時の会話を思い出し、質問してみる。あのときは、すぐに返事をしろと迫られた。

 ようやく、フレドリックくんの唇がオレの甲から離れる。


「いえ。勇者様も混乱されているでしょう。返事は急ぎません。混乱に乗じて、どうこうするつもりはありませんから、ご安心ください」



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