第14章−3 異世界の告白は突然です(3)

「五十一巻目は、ラグナークス家に嫁がないことには読めないようで……残念です」

「へえ……そこまでして読みたいヒトっているんだ?」

「はい。けっこういます」

「そ、そんなにいるんだ……」

「はい。最近では、わたしの三番目の兄が、五十一巻目を読みたいという理由で、ラグナークス家に嫁入りしました」

「え? ええ……?」


 兄貴が嫁入り……?

 オレの耳には、はっきりとヨメイリって聞こえたぞ?


 それって、婿養子か? 婿入りか?


 オレの異世界翻訳機能がおかしくなったのだろうか?


「……兄上が、本を読むために、嫁入りされたのか?」

「はい。兄弟の中では、一番、好奇心が強かったので、半ば押しかけるような形で、嫁入りしました」


 やっぱり、お兄ちゃんが嫁入りしているみたいだ。


「あ……相手の方も納得されているのか?」


 相手の方の性別はちょっぴり怖いので、聞かないことにする。


「そうですね……。最初は兄の積極さに辟易していたようですが、義兄もまんざらでなかったようで、夫婦仲は睦まじいと聞いています」


 兄と義兄が……夫婦?


 異世界翻訳機能のバグはスルーしよう。


 上流階級になればなるほど、政略結婚の色が濃くなってきて、愛とかロマンとかはないがしろにされがちだが……たった一冊の本のために嫁ぎ先を決めるとは……三番目の兄上とやらは、なかなかな御仁のようである。


「フレドリックくんも……五十一巻目のために……嫁入り……するつもりなのか?」

「そうですね。以前は、それもありかな……と思っていたのですが……」


 アリなのか?

 いいのか? そんな動機で、生涯の伴侶を決めてしまって……。


「今は、好きになったヒトを、口説き落として、伴侶に迎えるのもいいかな……と思い始めています」


 なんか、恋バナっぽくなってきた……。

 しかも、話し相手がフレドリックくんって、予想外の展開である。


「そっか。そっか。フレドリックくんなら楽勝だろうな。がんばって、その恋、成就してくれ」


 オレの言葉に、フレドリックくんは目をパチクリさせる。

 ゆっくりとした動作でティーカップをソーサーの上に戻し、オレの顔をまじまじと見つめてきた。


「勇者様……夕食中の会話は覚えていらっしゃいますか?」

「夕食中の会話? どの会話だろう……?」


 首をひねる。

 フレドリックくんとは、色々な話をした……ような気がする。


 王太子の「あけてくれー」が煩くて、怖くて、内容はあまり覚えていない。

 そもそも、夕食のメニューもあやふやだよ。シェフには悪いけど、味もよく覚えていないなぁ。

 それだけ『不可思議怪奇奇譚』がオレの中では大きな存在だったのだよ。



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