第14章−2 異世界の告白は突然です(2)
オレは内心で焦りながら、乾いた笑顔で対応する。
「もしかして、ひとりでは怖くて眠れませんか?」
「ひぃ……っ!」
もう少しで持っていたティーカップを落とすところだった。
フレドリックくんの洞察力の方が怖いんですけど……。
「勇者様、そんなに驚かれなくても大丈夫ですよ。『不可思議怪奇奇譚』は、かなりキテる全集です。騎士たちの間では、胆力の測定に、全集の何巻まで読めるか、ということをやるくらいですから……」
「えええ! 読書で、騎士たちの胆力測定をする?」
異世界の発想やばすぎる。
っていうか、オレがイメージしている騎士って、脳まで筋肉っぽい人種で、読書とは無縁な職業なのだが……。
こっちの世界の騎士はちがうのだろうか?
「六冊目辺りから、ひとりで夜は眠れないと訴え、添い寝を希望する騎士がでてきます」
「へ……え……っ。そ、添い寝、ねぇ……」
声が裏返ってしまったよ。
騎士ですらビビる本って……。
オレってば、なんて……物騒な本を引き当ててしまったんだろう。
嫌な汗が背中をじっとりと濡らす。
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ウロチョロしている王太子との鉢合わせを警戒して、オレは一歩も外に出ず、ずっと室内にいた。
オレは室内待機。
なので、フレドリックくんに頼んで、書庫から本を借りてきてもらうことにしたんだ。
借りてもらうときの手間を省くために、面白そうなタイトルで、そこそこのボリュームのある全集を指定したのだが……読んだ結果は、ちっとも面白くないことになっていたんだよね。
「ということは……フレドリックくんも、この……全集を読んだことがあるのか?」
もう、怖くて本のタイトルを口にするのも憚れる。
「はい。もちろんです。家の書庫にも初版本があります」
「初版……」
さすが、武闘派家門。
それを幼い頃からの愛読書にして、胆力を鍛えているフレドリックくんの姿がぼんやりと目に浮かんじゃったね。
「ちなみに、フレドリックくんは何巻まで読めたんだ?」
「五十巻です」
(やっぱり……)
強者はものすごく近くにいた。
六巻でひぃひぃ言っているオレはなんなんだ……と落ち込んでしまいそうである。
「ちなみに、リニーは五十一巻です」
「ごじゅういち?」
その数字にオレは首を傾げる。
全集は五十巻ではなかったのか?
「この『不可思議怪奇奇譚』は、ラグナークス家……宰相閣下の先祖が編纂者で、原本が宰相家の書庫に保管されているのです。ただ、五十一巻目は、あまりにもショッキングな内容となっており、発行を見合わせたという……幻の巻となっています」
「すっ……すごいな」
色々すごすぎて、言葉に詰まる。
だが、一番、すごいと思ったのが、五十一巻目をものすごく読みたそうに話しているフレドリックくんの胆力だろう。
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