第13章−5 異世界の誠意は謎です(5)
「コラ! おまえら離せ! 今から父上のところに言って、許可を……わたしのセイイの邪魔をするな!」
じたばたともがくドリア王太子を、フレドリックくんはさらに締め上げる。
骨の軋むような音が聞こえたような気がしたのだが……うん、気の所為だろう。
「ちょ、ちょっと……勇者様、なんてお願いをしているのですか? 今ならまだ間に合います。訂正しましょう! もっと実利的な、利益率の高いものを請求しましょう」
「勇者様……王家の禁書庫立ち入りよりも、もっと勇者様を幸せにするお願いが、きっとあるはずです。ここはいったん、冷静に……」
「いや、禁書庫にマオを招待……」
冷静にならないといけないのは、オレよりもオレの目の前にいる三人だろう。
「なんでまた……禁書庫など」
ため息まじりにリニー少年がぼやく。
「いや、だって、書庫の中の本はあらかた目を通したし……新しい本を読みたい……」
「……だからといって、よりにもよって、王家の禁書庫の本など……」
オレの答えに、リニー少年は首を振る。
……なんだろう、このリニー少年とフレドリックくんの反応?
妙に、やる気満々すぎるドリア王太子も気になると言えば気になるね。
「マオがそこまで禁書庫の知識を欲しているとは……。この国のことを積極的に学ぼうとするその姿、とても嬉しいぞ! 惚れ直した!」
いや、そんなことで惚れてくれなくてけっこう。
わざわざ直す必要もないよ!
それに、オレが積極的に学ぼうとしているのは、元の世界に帰る方法だからね……。
そのように言われると良心がちょびっとだが痛むかな。
ドリア王太子は、フレドリックくんの戒めから脱出すると、部屋の扉へと向かっていった。
「待っていてくれ! 明後日、いや、明日には、必ず、禁書庫への入室許可をもぎとる。約束する! これで、わたしのマオに対する愛の深さをわかってほしい!」
言いたいことだけを一方的に言って、残念王太子は部屋からでていった。
「なんか、いつの間にか、『誠意』が『愛の深さ』に変わっているんだけど……」
「……食後のお茶を用意いたしますね」
オレの呟きを無視し、リニー少年は茶の準備を始めた。
(逃げたな……)
リニー少年が相手をしてくれないのなら、フレドリックくんへと視線を向ける。
「勇者様……今日はお疲れでしょう」
追求しようとするオレの視線をやんわりとかわしながら、フレドリックくんは温室に面したテーブル席へとオレをいざなった。
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