第12章−6 異世界の笑顔は激甘です(6)

 願うように、オレの手の甲へ、フレドリックくんは優しくキスを落とす。

 すごく芝居がかった科白なのに、フレドリックくんが言うと、不思議なことにとても誠実な誓いに聞こえてくる。


「…………!」


 予想外の展開に、オレの心臓がびくりと跳ね上がる。


(い、い、一体、なにが起こったんだ? オレ、もしかして、口説かれてるの?)


「わー。なにを話している! やめろ! マオはわたしのものだ! 臣下の分際でなにをほざく!」


 廊下にいる王太子に、オレたちの会話が聞こえているようだ。

 どうもドリア王太子は耳がよいらしい。


「マオはわたしのものだ!」


 王太子の科白が変わり、さらに扉が強く叩かれるようになる。結界は壊れないだろうが、その前に扉が壊れそうだ。


「勇者様、お返事をお聞かせください」

「えっ? い、いますぐか?」

「はい。今すぐ、ここで教えていただきたいです。これからの夜を素敵なものとするために……」


 フレドリックくんの真摯な態度に、なぜかオレの心臓がドキドキと暴れ始める。


「やめろ――っ! わ――っ、悪かった。許してくれ! わたしがわるかった! 強引だった! 変に疑って悪かった! だめだ! ごめん! マオ! 許してくれ! だ、だから! ごめん! 許して!」

「…………」


 三人の視線が扉へと移動する。


 オレは立ち上がると、口の中で、結界解呪の呪文を唱えた。


「うわわわわっつ!」


 扉が壊れ、王太子が部屋に転がり込んでくる。

 思い余ったドリア王太子は、扉に体当たりをしていたようで、その勢いのまま、見事な転がりっぷりをオレたちに披露してくれた。


「マ、マ、マオ! マオ! 会いたかったぁぁぁぁぁぁっ」


 床の上を二回転、三回転と転がった後、部屋の中にいるオレを見つけると、王太子は脇目も振らず、一直線でオレに抱きついてくる。

 餌に飛びつく犬のように、まっしぐらだ。


 ドリア王太子は会いたかった、会いたかった、と涙を流しながら、そのままぐいぐいとオレを抱きしめてくる。


 あ、暑苦しいよ……。


「殿下、勇者様が苦しがっています。さらに、嫌われますよ」


 リニー少年の冷ややかな声に、ドリア王太子の身体がびくりと震える。

 ものすごくわかりやすい。

 そのまま勢いよく、オレからがばっと離れると、王太子は跪いてオレの手をとった。


「マオ、わたしが悪かった。許してくれ。すまなかった」


 泣きすぎと睡眠不足からか、目は充血しており、瞼は腫れていて、クマもできている。顔は涙でぐしゃぐしゃだ。


 それなのに、キラキラした美形は美形のままで健在なのだが、どことなくくたびれた感じがする。

 王太子なりに、相当、思い詰めていたようだ。




***********

お読みいただきありがとうございます。

これにて第12章終了です。

王太子殿下にライバル出現です! みんなでダメダメ王太子を応援するんだ!

フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。

***********

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る