第12章−5 異世界の笑顔は激甘です(5)

「え…………?」


 固い表情が多い、厳めしい顔つきの青年が、ふっとこぼす包容力が駄々洩れの笑み……。

 これって、めちゃくちゃ、反則じゃない?


 間違いなく、乙女のハートをぎゅっと掴み取って、潰してしまうくらいの殺人級の笑みだよ。

 いつもニコニコしている王太子の笑顔よりも、威力があってこうかてきめんだ。


 乙女じゃない、オレのハートもきゅんときたよ……。


「あんな、ねちっこくって、しつこくて、想い人のことも、忠誠を誓った部下も信じられない、嫉妬に狂う愚か者のことは、スパっと忘れてしまいましょう」

「あ……ああ……そうだな」


 フレドリックくんの笑顔にぼーっとしながら、オレはコクコクと頷く。

 笑顔とセリフのミスマッチも気にならない。


「忘れるには、新しい……」

「うん?」


 不意に言葉をとめたフレドリックくんを、オレは怪訝そうな顔でみる。


「男を見つけるのが一番でしょう?」


「はあ……あっあっあっあっ?」


 オレの声が裏返る。


(フレドリックくんご乱心!)


「どうでしょうか? 自分で言うのもなんですが、わたしは女性からはもちろんですが、男性からも想いを告げられることが多いので、好かれる人物のようです」


 ま……まあ、それは、納得できる。

 地に足がついてるぶん、王太子の上をいく優良物件だよね。

 王太子殿下は身分が違いすぎて、雲の上のヒトであっても、近衛騎士のひとりであるフレドリックくんなら、手が届く……と思うご令嬢とその家族も多そうだ。


「男性とはしたことはありませんが、勇者様とはできるような気がします」


(な、なにがだ?)


「あの鬼畜とは違い、わたしは勇者様を大切にいたします。決して、無体な真似はいたしません。自制心には自信があります」

「そ、……そうだろうな」


 日頃の勤務態度を見ていれば、それくらいは容易に想像できるよ。


「ですから、これを機に、わたしと付き合ってみませんか?」


(…………!)


「あ、ずるい! フレドリック様、抜け駆けはダメですよ。勇者様、年下が好みだとおっしゃるのなら、わたくしがお相手いたします! わたくしのこと、好きにしてくださっていいですよ!」

「へ…………?」


(ナニコレ? ご乱心しているのは、フレドリックくんだけじゃないぞ)


「リニー……今は、わたしと勇者様の時間だ。便乗は許さないよ。告白は、便乗するのではなく、ちゃんと向き合ってするものだ。それが、想い人へ示すことができる誠意というものだ」


(ちょ、ちょっと待って! なんで、こういう展開になるんだよ?)


「これは、本心です。勇者様の傷ついたお心を新しい恋で癒して差し上げます」


 フレドリックくんはテーブルの上に置いていたオレの右手を包み込むようにして持ち上げる。


「その新しい恋は、わたしと共に育くんでくれませんか?」





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