第12章−4 異世界の笑顔は激甘です(4)

 ドンドンドン!


「マオ! マオ! 開けてくれ! 部屋の中に入れてくれ!」


 ドンドンドン!


 夜になった……。


 暇というか、抜け出す隙を見つけては、王太子はオレの部屋にやってきて、部屋に入れてくれと扉を叩く。


 もう、ここまでくると、王太子のソレは執念を通り越して、怨念めいてきて怖い。


 今読んでいる本が、地方のそういう系の話を集めたものだった。

 しかも、どんぴしゃりな話を読み終えた後なので、よけいに不気味さが増す。


 夜、ひとりでトイレに行けるかどうか、ちょっと不安だよ……。


 にしても、近衛騎士たちに「オマエラちゃんと仕事しろ」と言いたいね。


 そもそも警護がザルすぎるんだよ。

 ザルというか、底の抜けたタライみたいなものだ。


 王太子をもっとしっかりと見張れ。

 他所様の問題に口をはさむのはどうかと思うけど、でも、でも、そんなに簡単に王太子を見失ってどうするんだと、ビシッと叱りつけてやりたいよ。


 オレも元の世界では、みんなにはナイショでフラフラ……と、城下に出かけることがあったけど、近衛騎士たちは、常に一定の距離を保ちながら、オレの後をついてきていたよ。


 王族など、プライバシーとか個人情報とか自由とかはあったもんじゃない。四六時中監視されてなんぼでしょうが。


 失敗から学ばないのか?

 学習能力がないのだろうか?


「政務が終了して、直ちにこちらに来られたようですね……食事も採らずに……」


 リニー少年はオレたちの給仕をしながら、何度目かのため息を吐き出した。


 王太子から食事はしなくても生きていけると聞いたので、そんな言葉でオレをどうこうできるものではない。

 ドリアのあの元気さなら、一日、二日、食べなくても大丈夫だろう。


「開けてくれ! 開けてくれ!」


 ドリア王太子の声がよく響いている。


 オレの結界魔法は完璧だよ。

 オレに敵とみなされた者は、例え、ドラゴンだって、この結界を破ることはできないだろう。結界強度は完璧だ。


 昼間、オレに抗議を入れようとやってきた宰相に対しても、結界が反応し、はじいてしまったのには焦ったけど……。

 リニー少年は微妙な顔をしながらも「英断かと思われます」と呟いていた。


「勇者様……」

「なんだ?」


 たっぷりの時間をかけてメインの肉料理を食べ終わったところで、フレドリックくんが口を開いた。


 あの日以降、三食、お茶の時間は、なぜかフレドリックくんと共にテーブルについていた。


 体が資本なフレドリックくんにしては珍しく、食が進まないようである。

 あれだけドンドンと扉を叩かれていては、落ち着いて食事もできないよね。


 それはオレだって同じだから。


 ふたり……いや、三人は同時にため息をこぼす。


「勇者様。もう、アレは異常です。病気ですよ」

「うん。オレもそう思う」


 やっかいなヤツに好かれてしまった……と思わなくもないね。


「どうでしょう?」

「なにが?」


 扉とオレを交互に見ながら、フレドリックくんはいきなりにっこりと笑った。





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