第11章−6 異世界の嫉妬は過激です(6)※

 オレが風呂に入ってイジイジしている間、リニー少年はオレのために忙しく動いてくれた。


 フレドリックくんにオレの相手を任せ、部屋の外に控えていた、夜番の近衛兵に痛み止めの手配をするよう命じる。

 乱れた寝室を整えなおし、オレの着替えや、湯上がりの飲み物などを手早く、だが、ぬかりなく準備をする。いつも以上に、完璧な仕事だ。


 オレがのぼせる直前にリニー少年は浴室に現れ、フレドリックくんを顎で使いながら、オレを風呂から引き上げる。


 手早く濡れた躰を拭き、おろしたての夜着を着せてくれた。


 オレはいくつものクッションを積み重ねた椅子に座らされ、飲み物を貰い、痛み止めの薬もすすめられるがままに飲んだ。


 即効性ではないので、まあ……そのうち痛みが引くのを待つしかないかな。


 小さなサイドテーブルの上には、栞がはさまった読みかけの本がさりげなくあったが、さすがにそれには手がでなかったよ。


 本に興味をしめさず、椅子でぐったりとしているオレを見て、なにを思ったのか、フレドリックくんとリニー少年が、いきなりオレの前に跪いた。


「申し訳ございませんでした」

「申し訳ございませんでした」


 どうした?

 なにがはじまった?

 なぜ、ふたりがオレにわびを入れているのかよくわからない。


「おふたりは、合意の上で、夜の営みをされているものとばかり思っていました」

「ご、ごうい……?」

「はい。毎晩、激しく……。おふたりは大変、仲睦まじく、愛し愛される関係にあるものとばかり」


 リニー少年の言葉に愕然とする。

 オレって、そんな風に思われていたんだ……。


「まさか、勇者様が、こ、こ、こんな……おいたわしい……」


 寝台の惨状を思い出したのだろう。リニー少年はおいおいと泣き出しちゃったよ。


(ええええ……)


 小姓失格です、と泣き出したリニー少年に、オレはどう声をかけてよいのかわからない。

 とりあえず、なにか、気の利いた言葉をかけて『役立たずは処分思考』は、なんとしても止めなければならない。


「昔から、殿下は、見た目に反して残念な奴だとは思っていたのですが、ここまで残念で外道だったとは……。主人の暴挙を諫めるどころか、気づかぬまま放置していたこと、誠に申し訳ございません。このあまりの獣じみた鬼畜ぶり……弁明のしようもございません。ただただ、己の浅はかさに恥じ入るばかりです。夜にこそ、勇者様を傷つけようとする者から御身をお護りしなければならなかったことに気づかず、申し訳ございません。災厄はすぐ側にいたことに思い至らず、護衛任務をまっとうできず、大変、申し訳ございませんでした!」

「申し訳ございませんでした!」


 ふたりは再び頭を下げる。


(ええええ……)


 フレドリックくんもフレドリックくんで、なにやら思い詰めた危険な匂いがする。

 この思い込みの激しさは、この国の特性なのだろうか……。

 ちょっと、これはやばいよ。


 もたもたしていたら、フレドリックくんとリニー少年の首と胴体が離れてしまう。

 役立たずは処分を、なんとしても止めなければ!




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