第11章−4 異世界の嫉妬は過激です(4)※
扉はドンドンからガンガンという、体当たり的な音に変化し、王太子もようやく気持ちを切り替えることができたようである。
「まて、そちらに行くから、扉を壊すのはやめろ」
そう命じながら、乱れた衣類を整え、王太子は寝室を後にした。
(た、助かった……)
オレは大きなため息を吐き出すと、布団にくるまったまま気を失ってしまった。
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オレが意識を手放していたのは、そんなに長い時間じゃなかったと思うよ。
少年の悲鳴めいた叫び声が聞こえ、オレはうっすらと目を開ける。
全身がギシギシと痛み、悲鳴をあげている。
オレの視線の先には、掛け布団を手にしたリニー少年が、青ざめた顔で突っ立っていた。
ベッドサイドには湯の入ったタライが置かれている。
どうやら、退出した王太子に代わって、リニー少年がオレの身体を清めてくれるつもりだったようだ。
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆーしゃしゃまっ」
「どうした?」
リニー少年は、ガクガク震えながら、オレを見つめている。
「す、す、すっ、すぐに! い、医者! 医者をすぐに!」
「大丈夫だ。怪我は回復魔法で治したから。もう、血は止まっている」
「え……」
オレの言葉にリニー少年は固まってしまう。
「医者よりも、もう一度、風呂に入りたい」
「わ、わかりました。入浴の準備も整っていますので、ご案内します……あっ」
オレは寝台から下りて立ち上がろうとしたのだが、バランスを崩すように床の上に倒れ込む。
「ゆ――しゃさま――っ!」
回復魔法で傷は塞がったが、オレの回復魔法レベルが低くて、この痛みまでは治せなかったんだよな。
魔王であるオレが体調を崩したり、怪我をしたりすることはめったにない。
でも、仮にそのようなことになった場合、オレの専属医師団が飛んできて、たちまちのうちに治療してくれるんだ。
石に躓いて転んだだけでも、オレが起き上がる前に、医師団に囲まれ、治療準備が整えられているという、驚くべき手早さである。
過保護に甘やかされている……といってもいいだろうね。
そもそも、オレは勇者に討伐されないといけないので、下手に回復魔法のレベルを上げてしまうと、最終決戦で泥仕合になってしまうので、控えていたのだ。
過去、自動回復が発動したときは、悲惨だった。
勇者はダース単位のエリクサーを空にして、日付をまたいだ戦いになってしまったのである……。
それ以来、オレは回復系の魔法は最低限レベルで抑えるようにしていたんだが、まさか、こんなことで不便を感じるとは……想像もしてなかったよ。
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