第11章−1 異世界の嫉妬は過激です(1)※

 こうして密着していると、ドリアがものすごく緊張しているのが伝わってくる。


「き……きらいじゃない……」


 小さな声だけど、ドリアには聞こえるくらいの声でそれだけを言う。


(きらいじゃないけど……すきでもない)


 なのに、どうしてだろう……。


 顎を掴んでいた手が離れる。


「あ……」

「ここは……こんなになっているのに?」


 ドリアの意地悪な質問に、オレは言葉を失う。


 毎日、毎晩。

 一日も欠くこと無く。

 国葬の準備で忙しいはずなのに、こんなに余力が有り余っているなんて、王太子は本当に人なんだろうかと疑ってしまう。


 日中、ちゃんと政務をしているのかどうか疑わしいよ。

 まさか、夜に向けて、体力を温存しているのじゃないだろうか。


 一度、それとなく、リニー少年とフレドリックくんに聞いてみた。

 すると……。


「ええ、それはもう……。今までにないくらい集中されて、意欲的に政務をこなされていらっしゃる……と父が申しておりました」


 これはリニー少年からの提供情報である。


「はい。なんだか、怖いくらいに、真面目に取り組んでいらっしゃいます。いつもは毎日一回は必ず、脱走されて、近衛騎士たちは捜索に駆り出されるのですが、勇者様がいらしてからは、脱走もなく……。同僚も大変喜んでいます」


 これはフレドリックくんの情報だ。


「そうなんです。勇者様がいらしてから、父やその補佐たちの残業が減りました。勇者様は、文官たちの救世主ですね」

「…………」

「殿下はやれば出来る子なのですが、今までは政務に関心がなく、近衛騎士の目を盗んでは、行方知れずになって、非常に困っておりました。勇者様、殿下の行いを改めてくださり、ありがとうございます」


 と、なぜか、オレが感謝されてしまったのだが……。

 

 どうやら、ドリア王太子は、オレと毎晩、楽しいことをしたいがために、日中、せっせとお仕事を頑張っているようだ。


 ドリア王太子は宰相も驚く速さで一日の業務を終了させ、オレのところへ通っていると認識されているようだ。


 リニー少年とその父親は「勇者効果はすごい」を連発しているようだが……。


 オレに一刻も早く会いたいがために頑張っている、と言われても、動機があまりにもストレートすぎるというか、不純なので、少しも感動できない。


 むしろ、宰相に「もっと王太子への仕事を増やし、クタクタになるまで使い潰せ」と言ってやりたいくらいだよ。




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