第10章−7 異世界の情報網は怖いです(7)※

「愛しているのか?」

「…………」


 なんて答えようかと悩んでいるうちに、ドリアに先手を打たれる。


「なんで? 会ってまだ一週間くらいで、好きだの、愛してるだの……。どうして、そんな話になるんだよ!」


 恋人同士の喧嘩のような展開に、オレは苛立ちが募ってきた。

 ドリアを押し避けようとするが、両腕はドリアに掴まれてどうしようもできない。


「わたしは……」


 ドリアの整った顔が眼前に迫ってくる。


 やめてくれ……。


 そんな顔でオレのことを見ないで欲しい。


「わたしは、マオに、初めて会ったときから……あの儀式の間で、マオと目があった瞬間、恋に落ちた……んだ」

「…………」

「愛している」


 ドリアから怖いくらい真剣な表情で囁かれる。熱い瞳がオレをとらえて放そうとしない。


「やめてくれ……」


 オレは顔を背けると、それだけをしぼりだすようにして言う。


 そんなことを言われても困るよ。

 オレはちっとも嬉しくないんだ。

 正直、迷惑だよ。


 こちらの世界の寿命は知らないけど、オレの時間軸とドリアの時間軸は違う……。


 好きになったヤツとの楽しい時間は一瞬で終わり、その後は長い虚無しか残らない。

 もう、そんなのはたくさんなんだ。


 魔王に愛を囁くって、どうかしているよね。


 しかも、今のオレは男性体だよ。

 王太子なんだから、次期国王なんだから、もっと考えて行動しろ、と説教したくなる。


 オレがこの世界に召喚されてから、この日の夜まで、一日も欠かすこと無く、ドリアはオレに愛の言葉を囁き、行動で示してきた。


 だが、オレはそのたびに言葉を濁し、のらりくらりとかわし続けていた。


 そのツケがまわってきたようだ。


 ドリア王太子の性格からして、よく保った方かもしれない。

 もっと早く知りたかったんだろうが、オレのことを考えて、ドリアはある程度以上のところは踏み込んでこなかった。


 それが、今日、オレがフレドリックくんと食事とお茶をしたことで、タガが外れてしまったのだろう。


 まずった……。


「目を反らすな」


 ドリアは片手でオレの両手をひとまとめに握りしめると、もう一方の手でオレの顎をつかんだ。


 強引に正面を向かされ、オレはぎゅっと瞼を閉じる。


「マオ! 目を閉じないでくれ。わたしを……わたしだけを見てほしい」


 オレは目を閉じたまま、イヤイヤと首を振るが、顎をつかまれているので、それも満足にできない。


「そんなにわたしのことが……嫌いなのか?」


 その質問に、オレはもう一度、首を横に振った。



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これにて第10章終了です。

途中でまったり展開が続きましたが、それでも読み続けてくださってありがとうございます。

フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。

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