第10章−6 異世界の情報網は怖いです(6)

 部下を失う悲しみは、ドリアにはないのだろうか……。


 だが、オレが必死になってフレドリックくんを庇えば庇うほど、ドリアは疑惑を深めていくんだ。


「オレが原因で、ドリアの部下が処分されるのは嫌だ! 嫌だから!」

「そんなにフレドリックが大事なのか?」

「いや、そういうわけじゃないけど……」


 今にも泣きだしそうなドリアの顔をみて、オレはもごもごと口ごもる。


 キラキラと眩しい笑顔も素敵だが、とりつくろった笑顔よりも、本心が表情にでいている方がいい……と思った自分を殴りたい気持ちになるね。

 こんな本心むき出しは嫌だよ。


 なんでこうなるんだろう?


「そういうわけではない、ということは、フレドリックのことが……」


 ドリアはそこで一旦、口を閉じる。


「好き……なのか?」


 ドリアの怯えたような眼差しが、オレの心を深々と抉った。


(ま、まずは、落ち着こう……)


 『好き』には色々な種類がある。


 フレドリックくんは、『好き』か『嫌い』かと聞かれれば、オレは迷わず『好き』と答えるだろう。


 だが、その『好き』とは、一緒にいて好ましいという意味での『好き』だ。


 フレドリックくんは、よく気がきくし、控え目だけど、臆病ではない。真面目で邪心がなく、わかりやすいぐらいに真っ直ぐなんだよ。


 武人らしく、逞しい躰に、王太子に比べたら地味だけど見目麗しい容貌。包容力もある。実際に見たことはないが、剣の腕もよいだろうね。


 護って欲しいというか、フレドリックくんになら護られたいと思わせる資質というか、安心感が、フレドリックくんにはあるんだ。


 また、色々と話をしてみて、思慮深い人物だということもわかったよ。


 常に先回りして、準備を整え終えているリニー少年ほどではないけど、オレが本当に困ったときや、助けが欲しいときには、フレドリックくんは黙って手を差し伸べてくれるんだ。


 とてもいいヤツなんだよ。


 付き合えば、付き合うほど、その人物のよさが身にしみてわかってくるタイプだね。


 嫌いではないよ。


 こんないいヤツを嫌うヒトが、どこにいるというのだろうか?


 魔王として、国を治めなければならない立場だったオレとしては、フレドリックくんならずっと側近として『側に置いておきたい』と思うよ。

 オレの歴代側近と比べても、トップクラス……それこそ、一位、二位を争うレベルだ。それくらい好ましい。寵愛したっていいんじゃないかな?


 だけど、それは主従としての関係だよね。


 恋愛に興味がなかったオレでも、これくらいのことはわかるよ。


 ドリアが聞きたいことはそういう『好き』ではないのだ。



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