第10章−4 異世界の情報網は怖いです(4)※

 そうだよな。

 なんだかんだあっても、結局、最後はここに行き着くんだよね……。


 オレは寝台の上にそっと降ろされる。


 大きくてフカフカなベッドは、リニー少年の手によって、常に真新しいシーツが用意され、いつ使ってもいいように、整えられている。

 布団も枕も極上なほど柔らかい。そして、いい匂いがする。

 ここでゴロンと横になると、とても気持ちがいいんだ。


 だが、今のオレには、ベッドの心地よさを堪能している余裕はなかった。

 

 王太子は勢いよく寝台に乗りあがると、オレの上に跨り、冷たい目でオレを見下ろした。


 いつもとは違う表情の王太子と、いつもとは違う展開に、オレはとまどう。


「……えっと……。夕食は?」

「不要だ」


 ドリアの硬く乾いた声にオレは驚く。

 目が怖い。目が怖い……。

 そんな恐ろしい目で、オレのことを睨まないで欲しいよ。


「不要って……いや、ちゃんと、食事をとらないとだめだよね?」


 王太子から散々言われつづけていた言葉を、今度はオレが王太子に返す。


「王族は……始祖に近い力を持つ者ほど、食事を必要としない。わたしは、食事などせずとも、魔素があれば生きていける」

「はああああっ?」


 この数日間の夕食と朝食は、いったいなんだったんだ!


(また騙された!)


「いい加減にしろっ!」


 思いっきり叫ぶ。


 パンツといい、ヒラヒラフリフリの夜着といい……。

 異世界人のオレは、こっちの世界の常識を知らない。だからといって、弄ぶのもたいがいにしてほしい。


 起き上がろうとするが、その前にドリアがオレに覆いかぶさる。


「コラ、離せ! 嫌だ!」


 手足、全身を使って暴れもがく。

 王太子に組み伏せられたら、どうあがいても勝てないということは、この数日で学習したが、今日のオレは、かなり頭にきてたよ。


 それこそ、魔法をぶちかましてでも、王太子の中から逃れたかったんだ。


「離さない」


 なのに、ものすごく甘い声で、囁かれる。


「今日は、昼食とお茶の時間に、フレドリックの同席を許したんだな?」

「へ……? ああ。そうだけど?」


 いきなり、なんの話をするんだろう? という疑問もあったが、真面目に受け答えしている自分が、本当に情けないね。


「とても楽しそうだった、という報告をうけたぞ」


(ええええええっ!)


 誰がいつの間に、そんなことを王太子にチクったんだ!




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