第9章−3 異世界の書庫は凄いです(3)

 お互い不干渉というわけでもなく、オレが棚から本を持ち出したり、返却したりするときは、フレドリックくんは黙って本を運ぶのを手伝ってくれる。


 ちょっと高めの場所にある本は、なにもいわずとも、サッと動いて取り出してくれる。


 脳筋かと思っていたのだが、本の返却場所も覚えているのか、理解しているのか、間違うこともなく、本を棚に戻してくれるんだ。


 ぐいぐい迫ってくる王太子や、なにかと世話を焼きたがる小姓と比べ、護衛騎士は職務に忠実で、オレから離れず、だが近づきすぎない……という、絶妙な距離感を保ってくれている。


 なかなかデキる男じゃないか。

 どうせ護衛が四六時中張り付くのなら、こういう、気配りばっちりな男を側に置いておきたいものだね。


 特に、距離感の取り方は、惚れてしまいそうなほど、抜群だよ。


 この部分は、特に、王太子にも見習ってほしいところだね。


 四日目以降、書庫に入り浸りとなってしまったオレだけど、昼食、お茶の時間になると、リニー少年が現れ、オレになにかを食わせようとしてくる。


 そして、書庫が閉まる時間になると、オレを客室に連れ戻し、夕食と食べさそうとやってくる。


 正直、読書の邪魔をしないでほしい。


 体質的に食べなくても生きていけるから食事はいらない、と何度も断るが、リニー少年は諦めてくれない。


 そういう決めつけというか、思い込みが激しいのは、こちらの世界の人々の特性だろうか……。


 せめて、手づかみで食べられるサンドウィッチのようなものを用意して欲しいとお願いしたのだけど、その願いもあっさりと無視された。毎回、椅子に座って食べるコース料理が用意されるんだよね。


 貸し出し可能な本を持ち出して、食べながら読もうとしたら、栄養が行き渡らなくなります、とリニー少年に取り上げられてしまった。


 いや、そもそも、オレには食事は必要ないので、栄養もなにもあったもんじゃないのだが……。


 ****


 六日目に、それならば、オレひとりではなく、フレドリックくんが同席して、同じものを食べるのなら食べてもいい……と言ってみると……そうなってしまった。


 どうやら、力関係では、リニー少年の方が上のようである。


 リニー少年の指示に逆らうことができずに、粛々と従っている、大柄なフレドリックくんの姿は……なんとも微妙なかんじだ。

 恐るべし宰相の威光……。


 お互い、最初は乗り気ではなかったのだが、ひとりで黙々と食べるよりも、やはり話し相手がいる方が、楽しい時間になった。


 食べるという義務的強制参加が、護衛騎士との交流時間になる。


 フレドリックくんは、リニー少年よりも年上だけあって、話題も多ければ、経験も色々としていた。


 無口なヤツだと思っていたのだが、勤務中だから私語がなかっただけで、話すのが苦手というわけではないようだ。


 饒舌とまではいかないが、お互いの会話がとぎれないくらいのやりとりはできたよ。




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