第9章−1 異世界の書庫は凄いです(1)

 そして、四日目からは、オレの本格的な書庫通いが始まったんだ。


 フレドリックくんが言ったとおり、その日のうちに許可証が発行され、今日から書庫の本を閲覧できるようになった。


 リニー少年に直接聞いてみたら、「はい。こういうときは、親の威光を存分に利用するように、と父から言われております」という言葉が返ってきた。


 怖いよ、宰相一家……。


 宰相親子の思考回路に少し怯えながらも、オレもちゃっかり許可証は利用させてもらう。

 やっぱり、使えるものは、遠慮せずに使うべきだよね。


 書庫の本を読むということは、元の世界に戻る方法を調べる第一歩でもあるし、こちらの魔王がどういった存在なのかも調べたい。


 それ以上に、オレの知的好奇心も半端ないからね。

 まあ、どれくらいすごいかというと……。


 オレは『不死の申し子』と『復活の理』という特殊なスキルを持っている。

 さらにもうひとつ、『勝者への憧憬』というスキルを持っているんだ。


 『不死の申し子』と『復活の理』はもともとオレが持っていたスキルだけど、『勝者への憧憬』は、オレが『勇者に大人しく殺られる報酬』として、聖なる女神ミスティアナから貰ったものになる。


 この『勝者への憧憬』というスキルは、勝者=勇者の記憶とシンクロする能力なんだよ。


 つまり、オレが敗者となることによって、勇者が持つ異世界の記憶情報をノゾキ……共有できるようになる。


 勇者に殺られると、オレが完全復活するにはたいてい二、三百年はかかる。それ以上のときもあったりする。


 その間はただひたすらに回復に専念する。となると、その間、どうしようもなく、とても退屈なのだよ。


 その暇つぶしにと、勇者のいた世界――

異世界――を知ることにしたのである。


 異世界は面白いね。


 魔法ではなく、科学でなりたつ世界は興味深い。


 まあ、国家間で争いごとがあったり、人間同士がいがみあったり、飢えや疫病など……楽しいことばかりでもない。

 異世界も大変なんだね、としんみりしてしまうときもあるけど、知らないことを知るというのは、とても楽しいことだよね?


 なによりも、娯楽がとくにいい。

 とくに、オタクという土地からやってきた勇者は博識で、退屈しないよ。


 異世界でシャチクだったり、イジメられてたりした勇者の記憶は、オレの胸も痛んだ。


 便利なのは、本人が忘れている情報も閲覧可能で、無意識下で拾っていた情報もちゃんとしたものとして認識できるコト。


 勇者個人の感情も読み取れるけどね、オレにだって、慈悲と自制心はあるからね。

 個人のプライバシーにまでは踏み込む気はないよ。


 そんなことをされたら、勇者もいたたまれないだろう。

 たとえば、童貞とか、彼女・彼氏いない歴イコール年齢とかも、『勝者への憧憬』でオレにはバレバレなのだ!


 勇者の人権は尊重するので、閲覧禁止は設定しているけど、ライブラリは隅から隅まで遠慮なく覗かせてもらっているよ。


 そもそも、それくらいの覚悟とリスクを持って、魔王に挑んでこいというものだ!


 近年、オレの意向もあって、魔王討伐はあっさりと片づけられてしまう傾向にあったけど、魔王自体を軽んじられては困るよね。


 召喚された世界が、勇者のいた世界でなかったのが残念だけど、この世界もこの世界で、面白そうだよね。


 肉食花なんて、オレの世界には存在しなかったからねぇ……。




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