第8章−3 異世界の識字率にびっくりです(3)

 異世界に召喚されて、十一日目にして、禁書庫に立ち入ることができたのだが、そうなるまでには……まあ、それなりに、それなりのことがあった。


 ということで、禁書庫に入る前の話に戻ろう。


 ****


 異世界に召喚された翌日は、城内を歩き回る気分にはなれず、部屋の中でゴロゴロしていた。


 で、なぜかリニー少年が用意した部屋着は、ヒラヒラ、フリフリした、ラブリーなデザインの恥ずかしいやつだった。


「着たくない。着るもんか!」


 もちろん、オレはシーツにくるまった状態で、断固拒否する。


 オレにだって学習能力くらいはある。


 リニー少年は「似合うと思うのですが」と凄く不服そうだったが、拒否だ。拒否!

 採用する理由がこれっぽっちもない。


 それがオレに似合うわけがないし、そもそも着たいとも思わない。リニー少年の目は、残念ながら節穴のようだね。


「こんなヒラヒラ、フリフリしたものじゃなくて、普通の部屋着を用意してくれ。シンプルなのがいい。パンツもこんなのじゃないヤツだ!」


 パンツもボクサータイプのものを強く所望するよ。


「そ、そ、そんなぁ……」


 なぜ、スケスケ薄布地のヒモパンツを拒否しただけで、リニー少年はどうしてそんなに悲しそうな顔をするの?


 ちょ、ちょっと……床の上に泣き崩れるってどういうこと?


「……あー。アレ、そう。あれだ! オレは、王太子殿下の部屋着とお揃いがいいんだ!」

「勇者様は、殿下とお揃いのお召し物をご所望ですか?」

「あ、ああ。そうだ。お揃い。ペアルックだ!」

「なるほど。殿下もお喜びになります!」


 ものすごくキラキラした目で、リニー少年は大きく頷く。


 一瞬、言葉を間違えたかも……と後悔した。

 でもね、フリフリ、ヒラヒラ、スケスケヒモパンツ生活になるくらいなら、それくらいは些細なことだよね。


 気にしたら負けだよ。


 そして……あっさりと、普通な部屋着が用意されたんだ。


 王太子が昨日、着ていたものと同じデザインだけど、サイズはオレにぴったりだった。


 王太子の方がオレより背も高く、体格もよいので、王太子の部屋着を渡されたら、大きめの服を着ることを覚悟していたのだけど……この部屋着、オレのためにしつらえたかのようなほど、ピッタリな服だった。


(量産品なのだろうか?)


 少しばかり疑問が残るが、下手に躊躇して、またヒラヒラ、フリフリを渡されても困るよね。


 オレは急いで部屋着に着替えた。


 パンツも心置きなく、安心して履けるものだった。


 よかった……。


 本当に、よかった……。




***********

お読みいただきありがとうございます。

フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。

***********

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る