第7章−5 異世界の朝は衝撃です(5)

 オレは疑いの眼差しでエルドリア王太子を見つめるが、王太子は『老衰説』を貫くつもりでいるようだった。


 いや……本当に老衰かもしれないな。


「大神官長様の葬儀なら、オレも参加するのか?」

「…………」


 王太子は沈黙する。

 その沈黙に、オレは、自分の立場の微妙さを悟った。


「マオの気持ちはありがたいが……。勇者が召喚されたことは、まだ正式に発表していないのだ」

「ああ……なるほど」


 まあ、昨日があんなぐだぐだな感じだったから、おいそれと発表なんてできないだろうね……。


「こんなことが起こってしまった以上、これ以上、民を混乱させたくない」


 オレは反論せず、黙ってうなずく。エルドリア王太子の考えも納得できるからね。


 魔王が誕生したとか、大神官長が死んでしまったとか、そして、大神官長が己の生命と引き換えに異世界から勇者を召喚した、おまけに、国王は病に倒れて伏せっている……などの情報が一気に放出されるとなると、国民には少し刺激が強すぎそうだ。


 オレのいた世界だと、間違いなく、大騒ぎになっている。


 ……まあ、それだけ話題が揃えば、この世の終わりがきた、と言い出すヤツもでてきそうだ。


 オレも無理して表舞台には立ちたくないしね。助かったといえば、助かったと言える。


 あまり、そういう……大勢の人の視線を集める行為は苦手なんだ。

 いっそのこと、このままフェードアウトしてもいいくらいだ。


 大神官長のおじいちゃんとは、お茶をした仲だが、それ以上の仲でもないからね。


 遠くからひっそりと、ご冥福をお祈りするだけにしておこう。

 申し訳ないが、王太子の反対を押し切ってまで、葬儀に参加するつもりはないよ。


 葬儀でどたばたしている間は、オレが勇者なのかどうなのか問題は保留になりそうだね。

 というか、オレを呼び出した張本人がいなくなったら、その議論も怪しくなるんじゃないかな……。


「国葬が終わっても、事後処理でしばらく慌ただしいかと思う。落ち着くまでの間の世話は、リニーに任せておく。護衛の騎士もつけるから、『城内の限られた場所』にはなるが、どちらかの同行があれば、自由にしてくれてかまわない」

「わかった」


 オレは素直にうなずいた。

 城外はだめなんだな……。

 ぶっちゃけ、城内監禁だが、部屋から一歩も出るな、よりはマシだろう。


 王太子は忙しくなるようだが、オレにはゆっくりと考えることができる時間が生まれた。


 その間に、元の世界に戻れる方法を探し、周囲の目が国葬に向いている間に、さっさと戻るのも悪くない。


 オレの勇者をいつまでも待たせるわけにはいかないからね。


 今日はゴロゴロしたいが、明日から真面目に頑張ろう。


「マオと共にいることができないと思うと、胸が張り裂けそうだ」


 そんな恥ずかしい科白を言いながら、エルドリア王太子は、何度もオレの方を振り返りながら部屋からでていった。


 いやいや。

 胸というものは、こんなことぐらいでは張り裂けないから安心してくれ……。




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お読みいただきありがとうございます。

まさか、まさかの展開です。(色々な意味で)

フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。

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