第7章−3 異世界の朝は衝撃です(3)※

 王太子の恥ずかしい言葉に、オレの体温が一気に上昇する。

 しかも、キラッキラな顔で言われているんだと思うと、オレの心がポキっと音をたてて折れてしまいそうだ。


 アレが素敵な夜だなんて、冗談がキツイ。

 いや、冗談ではなく、たしかに、素敵な夜だったから、まじで辛い……。

 頭に血がのぼって、思考がおいつかない。


 三十六回も復活をくりかえせば色々とあった。


 たが、はじめて……そう、はじめてだ。

 さらに、三十六回目の治世では、心惹かれた相手もおらず……。


 そういえば、近頃のオレは、賢者か聖職者並みの禁欲的な生活を送っていた。


 サイアクだ……。


 オレは心の中で、さめざめと泣いた。


「とてもよかったよ……」


 王太子の低く甘い声が、耳元で聞こえる。


 オレの心臓がびっくりして跳ね上がる。


(王太子、近づきすぎいいっっっっっ!)


 昨日から感じていたことだが、エルドリア王太子のパーソナルスペースって、狭すぎる。躊躇なく、ぐいぐいと近寄ってくるのはやめてほしい。


 オレは枕をぐっと抱きしめ、次になにをされるのか怯えながら、躰をカチンコチンに硬くする。


「マオと初めての朝食を共にしたかったのだが……」


 とても残念そうなエルドリア王太子の声が聞こえ、オレの髪がさわさわと揺れる。

 エルドリア王太子がオレの頭に手をやり、なでなでしているようである。ちょっとくすぐったいぞ。


 なんだか子ども扱いされているようで、モヤモヤする。


 っていうか、王太子は、昨日の夕食だけじゃなく、朝食もオレと一緒に食べるつもりだったのか……。


「せっかく、マオと心を通わすことができたのに……」


(いや、通わせてないから! そもそも、昨日のアレは記憶も飛び飛びで、よく覚えてないし!)


 オレの内心の反論など知ろうともしない王太子は、さらに言葉を続けた。


「急な話になるのだが、国葬を行うことになった。その準備や参加で、一、二週間ほど会えなくなる……」


 なんだか、今にも泣き出しそうな声だ。

 きっと、王太子個人的にも大事なヒトが亡くなったのだろう。


「…………?」

「国葬で城内も慌ただしくなるかと思うが、ここまでは影響ないだろう」


 オレのイメージしている国葬と、こちらの世界での国葬とは同じだろうか?


 国レベルで、特別な功労があった人物が亡くなった場合、国費で実施される、国の威信をかけた葬儀……だよな?


 っていうか、オレが勇者であるなら、国葬ともなると、出席しないといけないんじゃあなかろうか?


 召喚されて早々、オレは魔王退治ではなく、国の冠婚葬祭に参加させられるのだろうか?


「えっと……どなたがお亡くなりに?」


 せめて、オレの知らない人物の葬儀であってほしい……。


「大神官長だ」



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