第7章−1 異世界の朝は衝撃です(1)

 カ――ン。カ――ンン。


 物悲しい鐘の音が、混濁したオレの意識を覚醒へと導いていく。


 カ――ン。カ――ン。


 今は何時だろうか……。


 そんなことを考えながら、ゆっくりとまぶたを開ける。


 フワフワの大きな……たぶん、枕が、オレの目に映った。


 どうやら、うつ伏せで枕に顔を埋めて眠っていたようだ。

 感覚的には小一時間ほど眠ったようなのだが、実際はどれくらい寝たのだろうか。


 熟睡というよりは、気を失うような眠りだ。


 寝返りをうち、身を起こそうとするのだが、あちこちが痛くて、動くことができない。


 オレはうつ伏せのまま、目線だけで周囲を探る。


 部屋の中は、ぼんやりと薄暗い。

 しかし、明かりが必要というほどの暗さでもない。


 こちらの世界は、時間によって空の色が変化し、その影響で室内も明るくなったり、徐々に暗くなっていくのが面白い。


 目に飛び込んできたのは、見慣れない豪華な部屋。

 見慣れないが、記憶にはあり、ここがどこだかもわかる。


 異世界に召喚されてしまったオレに与えられた部屋だ。

 オレが歓迎されているのは、専属となった小姓の働きぶりや、室内の調度品をみればわかる。


 賓客をもてなす部屋にふさわしい、豪華で立派で巨大な寝台に、オレはひとり寝転んでいる。


 オレが気を失うまで、寝台にはもうひとりいたのだが、今はオレだけだ。


 枕もだが、寝台の中も、フカフカで気持ちがよい。

 うっかり二度寝してしまいそうなくらい寝心地がいい寝台だった。


 再び、オレは部屋の中を観察する。

 部屋の入口付近に、人が立っているのが見えた。

 眩しいまでにキラキラと輝く金髪の青年と、金髪の小姓が、なにやら小声で話し込んでいる。

 遠目ではっきりとはわからないが、深刻そうな顔をしている。


 エルドリア王太子とリニー少年だ。

 王太子は部屋着ではなく、昨日、初めて会ったときに着ていた正装だ。

 ただ、マントの色が黒い。


 昨日、というか、朝方まであれだけのことをやったのに、エルドリア王太子に疲れている様子は全く無い。

 エルドリア王太子は、穏やかな顔に似合わず、肉食系のタフなヤツだった。


 エルドリア王太子の姿が視界に入ったとたん、微睡んでいたオレの意識が一気に覚醒し、昨日の衝撃的なできごとを、次々とリアルに思い出す。


 オレは魔王。

 こちらの世界では勇者らしいが、元いた世界では、魔王だ。


 昨日、勇者と最後の戦いを開始しようとした直後、こちらの世界に召喚されてしまった魔王だ。


 召喚されて初めての夜……オレは温室でセキュリティの肉食花と遭遇し、媚薬の原液とやらを浴びてしまった。


 その後は……。

 

 なにがおこったか、オレがなにをやらかしてしまったのか……恥ずかしほどはっきりと覚えている。


 思い出しつつある……といってもいいだろう。



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