第6章−4 異世界の媚薬は危険です(4)※

「そんな……切ない顔で、扉を見るな。嫉妬で狂ってしまいそうだ」


 切なさを含んだ声で囁やかれる。


(な、なにを、王太子は言っている? そもそも、最初からコイツはおかしいじゃないか!)


 エルドリア王太子の手がオレに触れる。


「我慢してはだめだ。なにもかも、だしきらないと……」


(も、も、もしかして、だ、だすって……ソウイウことなのか!)


 オレの叫びにならない心の悲鳴がくわんくわんと脳裏に響いた。


 ****


 頭の中が真っ白になる。


「あ……ああ」


 力尽きたオレは背後にいるエルドリア王太子にもたれかかる。


「まだだ……」

「は……?」


 なにが『まだ』なんだ?

 恐怖で顔を引きつらせるオレの背後に、王太子の甘い息がかかる。


「ほら……」


 狭い浴槽内、しかも、体格で劣っているオレに逃げ場所はない。


「う、う……うそ……だ」


 もしかして、これが媚薬の原液効果なのだろうか……。


 言い知れぬ恐怖がオレを襲う。


(異世界の媚薬って怖い……)


 ****


 インドア派なオレは、魔法と知力、内政力に特化しており、体力……持久力があまりない。

 体力、持久力、抵抗力を下手に高めすぎると、勇者の討伐に支障がでてくるから、あえてそこは抑えてきた。

 それが裏目にでたようである。


 のぼせてそろそろマジでヤバい……。


 と思い始めた頃、ようやく、オレは浴槽から引き上げられ、寝台へと運ばれる。


 長時間、湯につかったせいで、実際にのぼせてしまった。


 苦い薬を飲まされ、ようやく解放されるかと思ったのだが、甘かった。


 間髪をおかずに、寝台での第二ラウンドが始まってしまったのである。

 

 過去、男前なオレと関係をもとうと企んだインキュバスやサキュバスに、何度も寝込みを襲われかけたが、その度に、オレはヤツラを返り討ちにしていた。


 なのに……。


 これはすべて媚薬のせいだと思いたい。


 元の世界では、ありえない事態だった。


 ……こうして、オレは刺激まみれの異世界での初夜を過ごしたのである。


 異世界って、ホント怖いところだ……。




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