第6章−3 異世界の媚薬は危険です(3)
オレは朦朧とるすなか、閉じられた浴室の扉を見つめた。
リニー少年に見捨てられたような気がして、寂しさに心の中がモヤモヤする。
というか、心の拠り所を突然失ったような不安に支配され、胸が苦しくなった。
出会って半日もたっていないというのに、リニー少年は、オレの中ではものすごく大きな、頼れる存在となっていたようである。
(リニーくんんん! 頼むから、オレをコイツとふたりっきりにしないでくれええええっ!)
「マオ……」
エルドリア王太子の熱を孕んだ声が、背後から聞こえた。
「ひぃぃぃぃっ!」
耳元で囁かれた声が、オレの心臓をぎゅっと握りしめる。
ぞわりと、腰から背筋にかけて、甘美な痺れが這い上がるように伝わり、全身へと広がっていった。
今、オレとエルドリア王太子は、湯がたっぷりとはった浴槽の中にいる。
ひとりで入ると大きかった湯船が、大人の男がふたりで入ると、狭く感じる。
つまるところ……逃げ場がない。
困ったことに、身動きがとれないのだ。
エルドリア王太子は風呂に入ると、背後から腕を回し、オレを自分の膝の上に置いて抱きしめる。
向かい合わせになっていないだけ、まだまし……なのか?
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清涼感のある香りを放つ湯が、そのたびにパシャパシャと跳ね上がった。
湯が跳ねるたびに、浴室が爽やかな香りで満たされていく。
だが、オレの脳内はちっとも爽やかではなかった。
(ヤバいぞ。マズイぞ……)
身の危険を感じたオレは、浴室をでていったリニー少年に助けを求めようと、扉の方に顔を向けた。
今なら、リニー少年はまだ部屋の中にいて、片付けや就寝の準備をしているだろう。
大声で叫べば、リニー少年はオレを助けてくれるはずだ。
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