第6章−3 異世界の媚薬は危険です(3)

 オレは朦朧とるすなか、閉じられた浴室の扉を見つめた。


 リニー少年に見捨てられたような気がして、寂しさに心の中がモヤモヤする。


 というか、心の拠り所を突然失ったような不安に支配され、胸が苦しくなった。


 出会って半日もたっていないというのに、リニー少年は、オレの中ではものすごく大きな、頼れる存在となっていたようである。


(リニーくんんん! 頼むから、オレをコイツとふたりっきりにしないでくれええええっ!)


「マオ……」


 エルドリア王太子の熱を孕んだ声が、背後から聞こえた。


「ひぃぃぃぃっ!」


 耳元で囁かれた声が、オレの心臓をぎゅっと握りしめる。

 ぞわりと、腰から背筋にかけて、甘美な痺れが這い上がるように伝わり、全身へと広がっていった。


 今、オレとエルドリア王太子は、湯がたっぷりとはった浴槽の中にいる。


 ひとりで入ると大きかった湯船が、大人の男がふたりで入ると、狭く感じる。


 つまるところ……逃げ場がない。


 困ったことに、身動きがとれないのだ。


 エルドリア王太子は風呂に入ると、背後から腕を回し、オレを自分の膝の上に置いて抱きしめる。


 向かい合わせになっていないだけ、まだまし……なのか?


 ****


 清涼感のある香りを放つ湯が、そのたびにパシャパシャと跳ね上がった。

 湯が跳ねるたびに、浴室が爽やかな香りで満たされていく。


 だが、オレの脳内はちっとも爽やかではなかった。


(ヤバいぞ。マズイぞ……)


 身の危険を感じたオレは、浴室をでていったリニー少年に助けを求めようと、扉の方に顔を向けた。


 今なら、リニー少年はまだ部屋の中にいて、片付けや就寝の準備をしているだろう。

 大声で叫べば、リニー少年はオレを助けてくれるはずだ。



***********

お読みいただきありがとうございます。

フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。

***********

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る