第6章−2 異世界の媚薬は危険です(2)※

「もう大丈夫でしょう……」


 という、なにかをやりとげたかのような、清々しい笑顔を浮かべながら、リニー少年は、オレの背中に湯をかける。


(つ、つ、疲れた……)


 心身ともに疲れ果ててしまった。


 その場に崩れ落ちそうになるところを、エルドリア王太子に支えてもらう。


 リニー少年は空っぽになった浴槽に湯を張り直す。


 どういう仕組みで湯が湧き出てくるのか不思議だったのだが、少し離れた場所に湯がわきでる源泉があり、魔法の仕組みを応用して、浴槽の中に湯を転送できるようにしているらしい。


 あっという間に、湯が満タン状態になる。


 浴槽に湯が満たされ、湯加減を確認してから、リニー少年は入浴剤らしき小瓶をとりだし、どばどばとなかの液体を注ぎ入れる。

 瓶の中が空になる。


「リニーくん? ちょ、ちょっと……量が多くないか?」


 さっき入ったときは、入浴剤は数滴しか使わなかったよな。


「いえ。これは、一本使い切りの毒消し効果のある入浴剤です」


(あ、リニーくん、たった今、アレを毒と認めたよな……)


 問題にするところはそこではなかった。


「お湯はぬるめに設定しておりますので、できるだけ長く湯に浸かり、体内に残っている蜜を出してください」


(へっ? 体内に残っている蜜を出せって……どうやって出すんだ?)


 オレの沈黙に、できた小姓は、なにかを察したようである。


「おひとりでできないとおっしゃるのなら、わたくしが勇者様のお手伝をいいたします」

「お手伝い?」


 なにを手伝ってくれるというのだろうか?


「はい。すでに作法は身につけておりますので、勇者様にも満足いただけるかと愚考いたします」

「…………いや」


 断ろうとして、自分の服すら脱げなかった、今日のオレを思い出す。

 そもそも『出す』という意味がよくわからない。


 これ以上、リニー少年に失態を晒すなど……異世界の魔王としてのプライドが許さない。


「わかった。それじゃあ……」

「大丈夫だ」


 オレの声に王太子の声が被る。


 と同時に、オレは軽々とエルドリア王太子に持ち上げられていた。


 オレって、そんなに軽いのか?


 オンナノコなら、間違いなく、恋に堕ちてしまう場面だ。


「リニー……勇者様のお世話はわたしがする。残りの準備が終われば、今日はもう下がってよい」

「……承りました」


 王太子に抱き上げられてぐったりしているオレの方をチラチラと見ながらも、リニー少年は、手早く浴室内を片付け、きびきびとした動作で退出していく。


 リニー少年はまだ十代前半だろうに、働き者だし、よく気が効くし、判断力も素晴らしい。

 所作も流れるように美しく、用意した部屋着とパンツはアレだったが、リニー少年なら、安心して身を委ねられる。


 それなのに……。


 エルドリア王太子の足が浴槽へと向かう。

 浮遊感を感じた後、オレとエルドリア王太子は湯船の中に入っていた。

 ザザーっと、湯が溢れ落ちる贅沢な音がする。


「あ……」


(やばい。なんか、すごくやばい。リニーくん、ちょっと待ってくれ! 戻ってきてくれ!)


「あ……あぁん」


 声がでない。代わりに、変な声がオレの口から漏れる。


 おかしいぞ?


 なにかが変だ?




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