第6章−1 異世界の媚薬は危険です(1)※

 オレはかつてないほどの量の湯を浴びまくると、次は石鹸でゴシゴシと洗われはじめた。


「い、痛い。痛い。痛いってば……」


 オレは悲鳴をあげた。

 リニー少年は、力いっぱい、ゴシゴシとオレの身体を洗う。


 先程の優しい手技と全く逆の展開である。

 力の入れ加減がはんぱなく強い。子どもにこんな力があるとは驚きである。


 石鹸の泡の力があっても、こう強く布で擦られたら、痛みを感じてしまう。

 オレのデリケートな皮膚がヒリヒリするよ。

 実際、赤くなってきた。


「勇者様、申し訳ございません。でも、しっかり洗い流さないと、後々、お辛い思いをするのは、勇者様ですから、我慢してください」


 そう言いながら、リニー少年は湯まみれ、汗まみれ、泡まみれになりながら、オレの身体を懸命に洗っていく。


 オレの隣では、鬼気迫る表情で、エルドリア王太子もゴシゴシと身体を洗っている。


「…………」


 王太子は洗っては洗い流し、また石鹸で洗い始めるということを何回も繰り返している。


 なにかに取り憑かれてでもしたような……異常とも思えるほどの行動だ。


「ちょ、ちょっと……そんなに、この蜜ってやばいヤツなのか? もしかして、毒性があるのか?」


 もう、それしかないだろう。


 確かに、あの蜜を浴びてから、なんだか身体の様子がおかしい。


 震え、動悸、目まい、発熱、発汗……うん、おかしいぞ。


 あの震えも恐怖のためではなく、別の要因があったのかもしれない。


「まあ、毒……といいますか。人によっては……毒ではあるかもしれませんが……用法用量を間違えますと、少しばかり不都合が……」


 なぜか、リニー少年は言いよどむ。


 その間も、しっかり手は動いており、オレの身体は洗われ続けている。


「肉食花の蜜は……媚薬の原料……原液のようなもので……」

「へ…………っ?」


(今、ビヤクって聞こえたぞ。ビヤクって、媚薬だよな?)


 オレがイメージしている媚薬と、こっちの世界の媚薬に、どれくらいの違いがあるのかはわからない。


 だが、リニー少年や王太子の慌てっぷりからして、ろくなことはなさそうだ。


「媚薬の原液を頭からかぶったら、どうなるんだ?」

「……まあ、その……とても気持ちがよくなるとか?」


(いや、それだけじゃないだろう?)


 オレは無言で、リニー少年に発言を促す。


「大丈夫です。初期処置を間違えなければ、そんな大事にはなりません!」


 リニー少年は胸を張って自信満々に宣言していたが、大事にはならないってことは、小事ならあるってわけだよな!

 だから、エルドリア王太子はあんなに必死に泡だらけになっているのか!


「リニーくん!」

「はい、勇者様」

「オレにも石鹸とタオルを」

「わかりました!」


 オレは差し出された石鹸とタオルを手に取ると、ゴシゴシと自分の身体を洗い始めたのであった。



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