第5章−5 異世界のセキュリティは優秀です(5)
寝る前のお茶を準備していた金髪碧眼の小姓リニーくんは、足音も荒く戻ってきたオレたちを、驚きの表情で出迎えた。
お姫様抱っこされているオレに驚いたのか、エルドリア王太子の腕の中でガタガタ震えているオレの姿に吃驚したのか、ぐっしょりと濡れているオレに仰天したのか……。
だが、エルドリア王太子のお墨付きの優秀な小姓は、一度だけ大きく深呼吸すると、すぐに冷静な顔に戻る。
「勇者様はどうされたのですか?」
気忙しげに問いかける。
「肉食花の蜜をかぶってしまった」
優秀な小姓の表情が固まる。
「た、大変です! 今すぐ、入浴の準備をいたします!」
リニー少年は、はじかれたように、浴室の方へと走り去った。
エルドリア王太子は、硬い表情のまま、リニー少年の後を追うように、浴室へと向かう。
ふたりの慌てぶりを見ていると、なんだか不吉な予感がする。
マズイ事態になっているんじゃなかろうか……。
震えもどんどんひどくなってきている。
「マオ、そんなに不安そうな顔をするな。大丈夫だ。わたしがなんとかする」
いや、ドリアの怖いくらいに真面目な顔を見てると、ちっとも安心できないじゃないか。
「勇者様! 入浴の支度が整いました」
リニー少年が浴室の中にオレたちを迎え入れる。
「早く、そのお召し物をお脱ぎになってください! お背中をお流しします!」
よほど慌てているのか、石鹸などの準備をしながら、オレに語りかける。
エルドリア王太子の助けを借りて、オレはなんとか腰掛けに座ることができた。
とにかく、着ている服を脱がなければならない。
匂いはよい香りがするが、なんだか、時間がたつにつれて、蜜がベトベト、ネバネバしてきた。
このときばかりは、脱ぎやすそうな服で助かった。と思った。
これなら、オレだって、ひとりで脱ぐことができる。
だが、悲しいかな。手がガクガク震えて服が脱げない。しかも、蜜がねばっこくからみついて、服が肌にひっついてしまい、はがれない……。
それならば仕方がない、とでもいいたげに、服の状態のまま、リニー少年が湯桶を使って、オレに湯をかける。
ザバザバと遠慮なく、頭からかけまくる。
バシャバシャと浴びせられる湯が邪魔をして、さらに服が脱げなくなる。
モタモタしていたら、ドリア王太子が手伝ってくれ、ようやく服をぬぐことができた。
リニー少年は、その間も、湯をオレにかけつづける。
勢いがつきすぎて、エルドリア王太子までびちょびちょになってしまったが、リニー少年のお湯攻撃は止まらない。
「殿下、後は、わたしにお任せください。殿下も一刻も早く、戻られて……」
「いや、ここで蜜を洗い流す」
「で、殿下! それは!」
リニー少年が止める間もなく、エルドリア王太子は勢いよく服を脱ぎ捨て、予備の湯桶を手にとると、豪快に湯をかぶりはじめる。
リニー少年と同じで、何杯も何杯も湯を汲み上げ、頭からぶちまける。
勝手にしろ……とでも言いたそうな目をして、リニー少年はオレの世話を再開する。
湯のかぶりすぎだろうか?
震えは治まってきたのだが、今度は身体の芯が熱を持ち始める。
のぼせてきたのか、頭がくらくらする。
エルドリア王太子は、石鹸をとりだすと、ゴシゴシと身体を洗い始めていた。
高級石鹸は泡立ちもよく、すぐさま泡だらけになっていた。
ちなみに、エルドリア王太子のパンツは、ボクサータイプのいたって、ノーマルなパンツだった……。
***********
お読みいただきありがとうございます。
これにて第5章終了です。
王室御用達の生きたセキュリティはとても優秀です。一家に一株オススメいたします。
フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。
***********
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます