第4章−5 異世界のパンツは薄いです(5)

 見事に咲き誇る花々に包まれているうちに、オレの心もほぐれていき、王太子に対する警戒心も徐々に薄れていく。


 慣れというものは本当に怖いもので、王太子のエスコートと、お互いの密着した距離感が、驚異的なスピードでしっくりとオレの中で馴染んでくる。


 ま、どちらかというと、オレは環境適応能力が優れているから――流されやすいともいう――驚きながらも、意外とあっさりこの世界のことを受け入れてしまっていた。


 この見事な花園の中にいると、今、オレがどんなものを着ていて、薄っぺらいパンツもどきしか履いていないことも、うっかり忘れてしまいそうになる……。


「マオ、気に入ったか?」


 ドリアの質問に、オレは大きく頷く。

 花でこんなに感動するなんて、信じられなかった。

 花って素晴らしい!


「花って、たくさん咲くと、こんなに綺麗で、すごくいい匂いがするんだな」

「マオの世界の花は違うのか?」


 ドリアの質問に、オレは軽く首を振る。


「オレのいた世界にも花はある。だが、オレの国では、花は……育たない」

「花が育たない?」


 エルドリア王太子が驚いたような声をあげる。

 詳しく知りたそうな表情をされたので、オレはぽつぽつと語りだす。


 オレの世界のことを知ってもらうよりも、一刻も早くこっちの世界の情報をゲットしたいところなのだが……。


 あちらの世界では、オレは魔族たちの長として君臨し、魔王の国を統治している。


 ニンゲンとは、世界を半分に分け合い、オレは『夜の世界』と呼ばれる地域を担当していた。


 『夜の世界』は、夜だけの世界で、朝とか昼はなく、ず――っと夜だ。


 日中も夜だが、濃い夜闇色ではなく、ほんのりと空が明るかったりする。


 特に、日光を必要としない種族ばかりが集まってというか……生き残って、そいつらがいつしか魔族と云われるようになり、その中から、力が強く、王に必要なスキルをたまたま持っていたオレが、魔王に選ばれたのだ。


 日光を必要としない種族が生き残ったように、植物もまた、日光を必要としないごく一部のモノが生き延び、環境に適応してきた。


 その過程で、花を咲かせる必要性がなくなったのだろうか。


 それとも、花を咲かせる必要がないという条件が、『夜の世界』で生息するには必要なことだったのか。


 その辺りの事情はよくわからないが、『夜の世界』で自生する植物は花をつけないものがほとんどだ。

 花をつけたとしても、鑑賞用として楽しめるほどのものではなかった。


 たまに『昼の世界』から花が持ち込まれたりするが、長くはもたなかった。


 切り花もそうだったが、鉢植えもすぐに枯れてしまう。


 『昼の世界』の苗や種を手に入れて栽培してみようともしたが、花が開く前に枯れてしまうのだ。


 オレのつまらない説明を、ドリアは黙って聞いてくれていた。


「ずっと夜の世界とは……不思議な場所だな」


 エルドリア王太子の正直な感想に、オレは思わず苦笑を浮かべた。





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