第4章−4 異世界のパンツは薄いです(4)
ひととおりの皿が空になると、デザートと紅茶が用意された。
「ところで、ドリア殿下……」
「マオ様、ドリアでいいと言いましたよね? プライベートなときだけで構いません。ドリアとお呼びください」
愛称だけではなく、敬称抜きまで指定される。
初日からぐいぐい距離をつめてくる王太子だ。
「わかった。では、オレのことも、マオでいい。王太子なんだから、言葉遣いも気をつかわなくていいだろう? 普通でいい」
逆らったところで無駄、というのを既に学習しているオレは、エルドリア王太子の命令を素直に受け入れる。
エルドリア王太子もオレの申し出に同意してくれたようだ。
現地人と友好関係を築くというのは、異世界生活では必要だろう。
「で、質問なんだが、コレって、ホントウに室内着なのか?」
薄っぺらい生地を指でつまみ上げながら、オレはドリアに質問する。
「室内着だ」
「ドリアが今、着ているものは?」
「室内着だな」
(……室内着の定義がよくわからないぞ)
こういうときは、質問を変えてみようか。
「ち、ちなみに、オレの着ているものは、誰が、なんのために着る室内着なんだ?」
「え……っと」
今まで、こちらがたじろくぐらい真っ直ぐだったエルドリア王太子の視線が、きょろきょろと落ち着かなく彷徨っている。
顔も赤くなっている?
この間はなんだ? なぜ、返答に詰まっているんだ?
「は、花嫁が、初夜に着るものだ。よく似合っている」
「…………」
異世界って、怖い……。
****
エルドリア王太子によって衝撃的な事実が暴露されたが、デザートもなんとか無事に終了する。
これでハイサヨウナラ! また明日!
……と、簡単に一日は終わってくれない。
エルドリア王太子はオレの手をとると、「この部屋にある温室を案内したい」と言って、オレの返事を確認することなく、ぐいぐいと引っ張っていく。
正直、この格好で連れ回されるのは、ちょっと嫌なのだが、エルドリア王太子の嬉しそ――な顔を見ていると、断るのもはばかられた。
エルドリア王太子って、こうやって、なんでもぐいぐいと押し進めていくヒトなんだろうね。
オレの周りにはいなかったタイプだよ。
この押しの強さが上手くハマれば、よい王様になるだろうが、一歩間違ったら、暴君になってしまう。
オレは魔王として敬意を集め、慕われてはいた。
周囲にいた者たちは、オレを主として敬い、かしずくことはあっても、一定の距離を置かれていた。
善き主君と忠実従順な臣下。
対等な関係は、勇者と聖なる女神ミスティアナだけ……という、ちょっぴり寂しい現実に気づき、オレは愕然としてしまう。
いや、オレが壁を作り、周囲の者と距離を置くことを望んでいたのだ。
こういう風に、遠慮なくオレに近づき、強引に扱われるのも、なかなかに面白いかもしれない。
仕方がない、付き合ってやるか……というノリで、オレは温室へと向かった。
ドリアに案内されて温室に足を踏み入れた瞬間――。
「うわあ……」
素直に驚きの声がでた。
浴室から見ていたときも、綺麗な花がたくさん咲いているんだろうな、とは思っていた。
実際にこの場に立つと、あらためて、その素晴らしさに感動する。
「とっても……綺麗だ」
オレはうっとりとした顔で、咲き誇る花々をぐるりと眺めた。大きく深呼吸をして、花の甘い香りを存分に堪能する。
「すごく綺麗だ!」
綺麗を連発するオレを、王太子は笑って眺めている。
「マオがこんなに喜んでくれて、とても嬉しいぞ。ホラ、こちらのエリアもすごいんだ……」
オレの喜ぶ姿を満足そうに眺めながら、オレの手をとり、王太子は温室の奥へと連れて行く。
これが、勇者の世界でいうところの『温室効果』というものだろうか?
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