第4章−2 異世界のパンツは薄いです(2)
うかつだった。
パンツ文化が違うと、こうも気持ちが落ち着かないとは……知らなかったよ。
三十六回も勇者接待を経験したとか……それは、ただの慢心でしかなかった。
薄いパンツに足元をすくわれるとは!
なにが、オモテナシだ!
ゴリヨウマンゾクドヒャクパーセントだ!
オレが今までやってきたことは、上辺だけの……このパンツくらいの薄っぺらいものだったんだ。
可能であるのなら、歴代勇者たちに、土下座して詫びをいれたい……。と、オレは心の奥底から思った。
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オレが異世界の薄い部屋着に衝撃を受け、新たな人生目標を設定しているころ、リニー少年は、上機嫌で夕食のセッティングを行っていた。
リニー少年の説明では、国王一家とともに晩餐を……というのは、召喚初日で混乱している勇者様にはあまりにも酷だ。
……ということになり、部屋でエルドリア王太子と夕食をとる、に変更されたらしい。
王様も病気で寝込んでいるっていうしな。
まあ、オレとしては、食事自体が必要ないので、「おかまいなく」と、お断りを入れたいところではあったけどね。
だが、例の「シェフが用意する料理に魅力を感じられないとは、あのシェフと、勇者様のお世話係は処分ですね」っていうリニー少年の言葉に脅された。
……っていうか、勇者様のお世話係って、自分自身のことを処分対象としてさらりと言ってのけるリニー少年の意識が怖い。
なんか、また、あのキラキラしい王太子と一緒の時間を過ごすのか……と思うと、もともとハナから存在しない食欲なのだが、食欲がさらに減退したような気分になった。
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室内のテーブルが整えられ、数名のメイドが大きなワゴンを押しながら、次々と客室に入ってくる。
豪華な夕食がテーブルに並べられた頃、エルドリア王太子がやってきた。
昼間見た豪華な衣装ではなく、シンプルなブラウスと、スラックスというやけにラフな格好である。
「…………」
「…………」
お互い無言で、互いの姿を確認しあう。
「おい。リニーくん、こういう服もちゃんとあるじゃないか」
オレの指摘に、リニー少年は可愛らしい舌をペロリとだす。
(やられた! リニー少年は天使ではなく、小悪魔だった!)
「マオ様……とてもお似合いです」
ほうっ……という溜息と一緒に、エルドリア王太子は、うっとりとした顔でそんなことを言ってくれる。
リニー、グッジョブ。生きててよかった……とかいう、エルドリア王太子の呟きの声も、オレの耳はばっちり拾っていた。
こんなもん、似合うって言われても、全然、嬉しくないよ。むしろ、屈辱しか感じないぞ。
オレはすぐさま、着替えをリニー少年にお願いする。
しかし……。
「せっかく用意した食事が冷めるのもよくありませんから、このままでよいではありませんか」
という、エルドリア王太子の押しの一言で、オレはこの恥ずかしい格好で食事をするという、まるで罰ゲームのような状態になってしまったのである。
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「エルドリア王太子殿下……」
「マオ様、ドリアとお呼びください」
オレの言葉は遮られ、愛称呼びを命令される。なんか、どことなく、美味しそうな響きがする愛称だ。
エルドリア王太子が、憮然としているオレの腰に手を添え、当たり前のように席までエスコートする。
強引なんだが、所作そのものは美しく、エスコートされる側からすれば、安心して身をゆだねることができる。
腰辺りにあった王太子の手が、尻の方に移動していくのは……異世界では礼儀作法のひとつなのだろうか?
オレたちは向かい合わせで席についた。
応接間で、密着するように隣り合わせで座ったときも恥ずかしかったが、こうして、向かい合わせに座って、真正面から見つめ合うという状態も、なんだか落ち着かない。
特に、この防御力ゼロの薄着では、落ち着けるはずがなかった。
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