第4章−1 異世界のパンツは薄いです(1)
オレは至福の入浴タイムを終え、脱衣所へと戻る。
リニー少年のマッサージで上機嫌なオレは、少年の用意した部屋着に、なんの疑問ももたずに袖を通した。
「…………え?」
着替えの途中で、動きがぴたりと止まる。
異世界の部屋着は……オレが予想していたものとは、少しばかり趣が違った。
なんか、とっても生地が薄くて、ヒラヒラしたレースがふんだんに使われているんだよ。
長めの丈のゆったりとした前開きの服で、ボタンはなかった。羽織ったら帯で締めるという……まあ、締付けの少ないシンプルなデザインだ。
オレが着ていた魔王の正装と比べると、軽く、ゆったりとしているね。
……というか、軽すぎて、ゆったりしすぎなんだよ!
胸元も大きく開いているし、布地面積がやたら少ない下着だけで、驚いたことにズボンはないと言われた。
ふとしたはずみで前がはだけ、下手したら下着から丸見えなんだよ!
どういうことだよ!
このとき、召喚直前に目にした、チョロイン聖女をなぜかオレは思い出していた。
デザインは全く違うのだが、コンセプトに共通部分が垣間見られる……ような気がする。
部屋着というより、エロいバスローブというか、ムードのある夜着……といった方が、ニュアンスというか、用途的には近いのではないだろうか?
勇者ポジションで召喚されたヤツが身につける衣装とは到底おもえない。
「リニーくん?」
「はい、勇者様?」
「これって、ホントウに、室内着?」
疑いの眼差しで、オレはリニー少年をじとっと見つめる。
いくらなんでも生地が軽い……いや、薄すぎる。
ちょっと引っ張ると、ビリビリとかいって、破れてしまいそうだ。
(こんなのありえない……)
いや、実際に、こうしてモノが存在していることからして、異世界ではありえる服装なのか?
動揺して、思考がまとまらない。
「そうですよ。勇者様。それは室内着です。とてもよくお似合いです」
同じような会話が何回か繰り返されたが、リニー少年の返事は、清々しいまでにも一貫している。迷いが全く無いよ。
オレの常識が崩壊しはじめている。
(……本当に、これが室内着なのか?)
まあ、これが外着ではないことだけは確かだよね。それだけはわかるよ。
こんなので、うっかり部屋の外に出ようものなら、変態扱いされるぞ。
と、思ってしまうのは、パンツとしてちゃんと機能しているのかも怪しい、下着なのかすらもわからない……下着だからだ。
ズボンがなくてスースーするから、どうしても不安になるのだろう。
(……オレ、異世界をなめていた)
その場に崩れ落ちそうになるのを、オレは必死にこらえる。
過去、オレを倒すために召喚された勇者たちも、カルチャーの違いで不安な思いをしたに違いない。
今のオレは、最上級の雷撃魔法を受けたくらいの衝撃を受けていた。
オレは今、召喚された側になり、いうなれば、勇者の初日を擬似体験しているのだ。と、言い聞かせてみる。
勇者の不安な心をこの身をもって体験、体感し、寄り添うことができれば、今まで気づかなかった問題点を洗い出し、次の勇者召喚に反映できるのではないだろうか?
ということに気づき、オレのテンションゲージがちょっぴり上がる。
いや、こうして、無理くりテンションを上げないと、このパンツじゃ、身が……いや、心が保たないんだ。
とりあえず、まず、元の世界に戻ったら、勇者世界のパンツを再現することからはじめなければならない。
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