第3章−6 異世界の風呂はサイコーです(6)
リニー少年に髪を丁寧に洗い流されながら、オレはぼ――っと考える。
三十六回も魔王をやっていると、勇者だけでなく、出会う家臣も民もそれだけ多くなる。
記憶力にはそこそこ自信はあるけど、オレも完璧ではないからね。
覚えきれないこともあるし、忘れてしまうことだってある。そこそこ……いや、かなり忘れているな。
適度な忘却は、復活ループにおいて、必要不可欠な技なんだよ。嘘じゃないよ。
オレがなぜ、魔王に選ばれたのか……というと、要因は色々あるのだが、オレが『不死の申し子』と『復活の理』というスキルを持っているのが大きい。
このスキルが微妙な塩梅で相互干渉して、何度死んでも、何度殺されても、復活できるんだ。
……という、便利なのか、不幸なのか、よくわからないループ状態にオレはなっているんだ。
だけど、復活できるのはオレ自身、ひとりだけなんだ。
魂の一欠片の存在から、魂を修復し、肉体を得て顕現するのにも軽く百年はかかる。
勇者との相性によっては、めっちゃ細かく粉砕されて、顕現するのに三百年かかったときもあったよ。
家臣の中には『不老』と『不死』の両スキルを併せ持ったヤツもいるにはいるが、数えるほどしかいない。
ヒトと比べて魔族は長寿が多いけど、運良く生き残っていたとしても、二回、三回の間で別離がやってくる。
この声の主も、オレの過去の中にいたヤツなんだろうね……。
名前も顔も思い出せないのが、ちょっと残念だ……。
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身体も清められ、髪も綺麗にしてもらったオレは、浴槽の隣にある寝台に寝転がるよう言われる。
ほどよく身体が温まり、髪を洗ってもらってご機嫌なオレは、素直にリニー少年の指示に従い、ころんとうつ伏せになった。
今なら、リニー少年のいうことならなんだって聞き入れてしまいそうな気がする。
リニー少年は別の小瓶をとりだし、オレの背中にオイルを塗りはじめた。
一瞬、ヒヤリとしたが、それはすぐに心地よい温もりをもちだす。
少年の小さな手でマッサージがはじまった……。
「あ……あっ」
あまりの気持ちよさに、なんか変な場所から変な声がでてしまう。
なんと、リニー少年はゴットハンドの持ち主だった。
(リニーくん、コレやばすぎる……)
少年の妙技に、オレはすっかり夢中になる。
「きもち……ぃ」
オレの呟きを耳にし、リニー少年は嬉しそうに微笑む。
「勇者様はずいぶんお疲れのようですね」
とくに、ここ……と言いながら、小さな手が、オレの背中をもみほぐす。
痛いのだが、それがとても気持ちがいい。
「う――ん。あの正装……ちょと装飾が多くて、肩が凝るんだよね。それにこのところ、忙しくて、寝てなかったんだよ……」
「そうでしょうね。しっかり揉みほぐしておきますね……」
リニー少年の手は筋肉にそって、様々な場所を揉みほぐしていく。
筋肉だけでなく、色々なところがほぐれていくようだった。
匂い立つオイルの香りも心地よい。
(この子、めちゃくちゃ上手い……)
マッサージの天才だ。
許されるものなら、お持ち帰りして、オレの専属にさせたいくらいである。
(異世界のお風呂……サイコーだ!)
オレは完全リラックスモードで、至福のひと時を過ごしたのであった。
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お読みいただきありがとうございます。
シャワーばかりだと肩こりが治りませんよ。お風呂にしっかりと浸かりましょう。
肩こり腰痛は整体がよろしいです。
フォローや励ましのコメント、お星様など、お気軽にいただけますと幸いです。
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