第3章−6 異世界の風呂はサイコーです(6)

 リニー少年に髪を丁寧に洗い流されながら、オレはぼ――っと考える。


 三十六回も魔王をやっていると、勇者だけでなく、出会う家臣も民もそれだけ多くなる。


 記憶力にはそこそこ自信はあるけど、オレも完璧ではないからね。


 覚えきれないこともあるし、忘れてしまうことだってある。そこそこ……いや、かなり忘れているな。


 適度な忘却は、復活ループにおいて、必要不可欠な技なんだよ。嘘じゃないよ。


 オレがなぜ、魔王に選ばれたのか……というと、要因は色々あるのだが、オレが『不死の申し子』と『復活の理』というスキルを持っているのが大きい。


 このスキルが微妙な塩梅で相互干渉して、何度死んでも、何度殺されても、復活できるんだ。


 ……という、便利なのか、不幸なのか、よくわからないループ状態にオレはなっているんだ。


 だけど、復活できるのはオレ自身、ひとりだけなんだ。


 魂の一欠片の存在から、魂を修復し、肉体を得て顕現するのにも軽く百年はかかる。


 勇者との相性によっては、めっちゃ細かく粉砕されて、顕現するのに三百年かかったときもあったよ。


 家臣の中には『不老』と『不死』の両スキルを併せ持ったヤツもいるにはいるが、数えるほどしかいない。


 ヒトと比べて魔族は長寿が多いけど、運良く生き残っていたとしても、二回、三回の間で別離がやってくる。


 この声の主も、オレの過去の中にいたヤツなんだろうね……。


 名前も顔も思い出せないのが、ちょっと残念だ……。


 ****


 身体も清められ、髪も綺麗にしてもらったオレは、浴槽の隣にある寝台に寝転がるよう言われる。


 ほどよく身体が温まり、髪を洗ってもらってご機嫌なオレは、素直にリニー少年の指示に従い、ころんとうつ伏せになった。


 今なら、リニー少年のいうことならなんだって聞き入れてしまいそうな気がする。


 リニー少年は別の小瓶をとりだし、オレの背中にオイルを塗りはじめた。


 一瞬、ヒヤリとしたが、それはすぐに心地よい温もりをもちだす。


 少年の小さな手でマッサージがはじまった……。


「あ……あっ」


 あまりの気持ちよさに、なんか変な場所から変な声がでてしまう。


 なんと、リニー少年はゴットハンドの持ち主だった。


(リニーくん、コレやばすぎる……)


 少年の妙技に、オレはすっかり夢中になる。


「きもち……ぃ」


 オレの呟きを耳にし、リニー少年は嬉しそうに微笑む。


「勇者様はずいぶんお疲れのようですね」


 とくに、ここ……と言いながら、小さな手が、オレの背中をもみほぐす。

 痛いのだが、それがとても気持ちがいい。


「う――ん。あの正装……ちょと装飾が多くて、肩が凝るんだよね。それにこのところ、忙しくて、寝てなかったんだよ……」

「そうでしょうね。しっかり揉みほぐしておきますね……」


 リニー少年の手は筋肉にそって、様々な場所を揉みほぐしていく。


 筋肉だけでなく、色々なところがほぐれていくようだった。


 匂い立つオイルの香りも心地よい。


(この子、めちゃくちゃ上手い……)


 マッサージの天才だ。


 許されるものなら、お持ち帰りして、オレの専属にさせたいくらいである。


(異世界のお風呂……サイコーだ!)


 オレは完全リラックスモードで、至福のひと時を過ごしたのであった。




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お読みいただきありがとうございます。

シャワーばかりだと肩こりが治りませんよ。お風呂にしっかりと浸かりましょう。

肩こり腰痛は整体がよろしいです。

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